木もれ陽の街で

木もれ陽の街で

■木もれ陽の街で
昭和27年頃の時代背景であり、東京でも焼けの残った荻窪に主人公の自宅があり、その自宅が主な舞台となっています。主人公の公子は、2男2女の普通の家庭の長女。父は、小さい商社のサラリーマン、母は専業主婦、次女は、専門学校生、2人の弟は、まだ小学生、そして、公子は大手商社の医務室に勤務する看護婦という設定であす。物語は、この家族を取り巻く、親戚、友人、隣人との日常生活の中で、公子の淡い恋愛の展開が主題となっています。
主人公の自宅は、荻窪の山の手の与謝野晶子の旧宅の近くであり、主人公は、通勤の時にその旧宅を眺めながら荻窪の駅まで歩き、そして、与謝野晶子が鉄幹の押しかけ女房となった時の歌が場面ごとに出てきます。

わがこころ君を恋ふると高ゆくや
親もちひさし道もちひさし

主人公は、身持ちのあまり良くない貧乏画家に恋心を抱きますが、結果は、主人公の親友が、彼女の結婚式の直前にその画家と駆け落ちしてしまいます。小説は、主人公が、親友の事に気づく前に読者にうすうす感づかれてしまう流れになっていますが、作者の意図したものかどうか。
小説の終盤に、主人公の親友から主人公あての手紙がきます、その手紙にも、与謝野晶子の歌が書かれています。
全体的に、小津安二郎の映画を見るようなモノトーンの色調につつまれた小説です。
作者は、諸田玲子。以前、「源内狂恋」という小説を読んだ記憶があります。平賀源内の悲哀に満ちた生涯を描いた作品です。結構、これが面白かったので、図書館の新刊本の中で、諸田玲子の名前に手が伸びて、久々の小説本を読むことになりました。今回の作品は、諸田玲子の昭和の時代の小説として初めての作品だったそうです、元々、時代小説を主に手掛けています。2作品を読みましたが、軽いタッチで読みやすいと思いますが、直木賞は、まだ受賞していないようです。
この小説も読了後、清涼感を感じる作品であり、一気に読み下してしまったということは、
面白かったということだと思います。小説は、読み下すスピードで面白さが決まると思います。