父・藤沢周平との暮らし

藤沢周平

■父・藤沢周平との暮らし
「武士の一分」つながりで藤沢周平に興味を持ったので、たまたま、図書館の新刊本コーナーに本書を見つけ、貸し出しを受け読んでみました。作者は、藤沢周平の娘で遠藤展子さんです。プロの文筆家ではないので、文書自体は稚拙ですが、題名とおり、藤沢周平と娘との暮らしが綴られており、その中で、藤沢周平の私生活を窺い知ることができました。
藤沢周平。本名小菅留治、鶴岡の出身です。成人して、鶴岡の中学校で教鞭を振るっていましたが、結核に罹患し、東村山の療養所に転居し、療養生活を送り、その後、中学の教え子である作者の母と結婚、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞するまで、15年間、日本食品経済社に勤務しながら文筆活動との2足のわらじをはいていました。10年前に、亡くなり、存命ならば今年で80歳になります。
この本では、作者の保育園時代から作者の成長の節目ごとの藤沢周平との思い出が主題になっています。作者の母は、生後6か月で亡くなり、それから、祖母と父親に育てられ、男親の子育ての中で、周平は作品を書き続けていました。作者が6歳の時に、周平は再婚し、直木賞を受賞したのが、再婚から5年後だったことから、再婚後から文筆活動に力が入ったようです。
いずれにしても、藤沢周平の作品は、生活のすべてが単に書くことのみに没頭していたのではなく、日常の生活の中から生み出されたものであることが解ります。
この本の中で、印象に残ったのは、初孫のために書いた童話が紹介されています。

クマがのっこのっこと歩いていました。
浩平がとっことっこと歩いていました。
浩平はクマを見て、「およよ」と言いました。
クマはびっくりしてのっこらのっこらとにげて行きました。
ヒルはガーガーとなきました。
ウシはモーとなきました。
ヤギはメーとなきました。
浩平はエーンエーンとなきました。

時代小説で剣客の切った張ったを描く藤沢周平が、童話を書くとは、面白いですね。
このような、文筆家の研究ではなく、私生活を書いた本は、いろいろありますが、この本により、なんとなく小説家藤沢周平というよりは、1個人の藤沢周平を知ることができます。
漱石の思い出」は漱石の妻の夏目鏡子の口述を娘婿松岡譲が書いたものですが、漱石ファンとしては、漱石を知るために格好の本でしたが、生きた時代が違うのでやむを得ませんが、趣は、随分と違っています。
このように、小説家の暮らしを知りながら、その小説を読むと小説に対する感想が少し違ってくるかもしれません。そのことが、結果的に小説を面白くするのか、つまらなくするのか、それは、解りませんが、少なくとも、作者の意図は伝わりやすくなるのかもしれません。