こころ

漱石

■こころ
久しぶりに夏目漱石を読む。私は、夏目文学を昔から好んで読んでいました。大方、1年に2回は夏目文学に回帰してきます。今回は、「こころ」を読みました。もう、何回目の読了かは解りません。
夏目漱石の本は、全集を持っていますが、読む時は、わざわざ文庫本で読みます。従って、夏目漱石の本は、全集と文庫本を所蔵しています。何故、全集を読まないのかと言うと、全集は、昭和3年発刊の岩波漱石全集の初版本で、私が就職したとき、母方の祖父の書棚にあったものを就職祝いとして貰い受けた大切な一品だからです。
就職祝いに何か欲しいものを贈ろうと言う祖父に、以前から祖父の書棚に納められており、何時か貰い受けたいものだと思っていたもので、その岩波漱石全集を所望しました。その時、やや祖父が躊躇したように思えましたが、快く孫の私に譲ってくれた大事な本です。
この本には、歴史が刻み込まれています。祖父か祖母か、母か叔母か叔父か、誰か解りませんが巻末に読了後の小感が万年筆で書きこまれています。今回読んだ「こころ」の巻末の読了後の小感は次のとおりです。

離れていれば、親子でも夫切りになる代わりに、一所に居さえすれば、たとひ敵同士でもどうにかなるものだ・・・・つまりそれが人間だ 昭4.2.25読了小感

「こころ」は3編から構成されています。
「上 先生と私」主人公が先生と呼ぶ人との出会いから先生と親しく付き合う中で、先生のどうにも理解できない過去とその過去を背負いながら何故か現実からの逃避を続ける先生の内面を覗き知ろうとする私
「中 両親と私」大学を卒業した主人公は、父親の病気看護のため、帰郷し、そこで、徐々に死期に近付いて行く父親と私
「下 先生と遺書」主人公の私に届いた先生の遺書
先生の過去が綴られており、先生がなぜ世間から距離を置き、厭世的な生活をしていたか、その訳を先生が主人公の私にだけ伝える。
先生はKと言う親友を裏切り、Kを自殺に追い込んだ自分の責任をこれまで背負い続け、遂に、先生自身も自らの命を絶ってしまいます。その先生の裏切りとは、先生の奥さんのことでした。先生とKは同じ素人下宿に同居していた。先生はその下宿のお嬢さんを恋していたが、後で同宿したKも同じくお嬢さんに恋心を抱くようになり、先生はKからそのことを告白される。Kは禁欲の宗教家を人生の目的としており、先生は、Kの思想とのギャップを責める。そして、Kよりも先に、お嬢さんとの結婚をお嬢さんの母親に申し込む。そのことをKに打ち明けられないでいるうちに、Kの知るところとなり、Kは自殺する。その後、先生はお嬢さんと結婚したが、先生の過去を細君に話すことはなかった。
Kの自殺の原因は、先生の裏切りによるものだったのであろうか?Kは、K自身の禁欲の思想を守り通したのではなかろうか?当然、先生にも、そのことは解っていたと思うが、友人を出し抜いて自らの恋を成就させた自分を許すことができなかったのだろう。
やはり、読み応えのある明治の文豪の小説でした。