泣き虫しょたんの奇跡

泣き虫しょたんの奇跡

■泣き虫しょたんの奇跡
「泣き虫しょたんの奇跡」瀬川晶司著 サラリーマンからプロ棋士に、瀬川晶司私小説というか、小学校の頃から将棋に目覚め、紆余曲折を経てプロ棋士になるまでの自叙伝です。
瀬川晶司は、2005年に36歳でプロ棋士になりますが、私は、将棋のことは解らないので、当時、気がつかなかったのですが、将棋の世界では、異例中の異例のことであり、新聞各紙でも、大きく取り扱われ、マスコミも注目した出来事だったようです。
小説は、すべて事実に即して書かれており(当然、自分史なので多少の脚色はあると思われますが)、瀬川晶司を取り巻く人物も実在の本名で書かれています。従って、現在、将棋界で活躍しているプロ棋士の名前も出てきます。
簡単にストーリーを紹介すると、物語は、主人公である瀬川晶司が小学校5年生のころから将棋に目覚めたことから始まります。小学校の文化祭で、将棋大会が開かれ、平凡な生徒である彼が、一躍、注目される存在になります。それから、彼の将棋人生が始まり、手始めに、駅前の将棋センターで大人顔負けの腕前に成長します。そして、店主の後押しもあり、小学生の全国大会でも優勝し、その時に、同世代の現在、活躍している棋士を知ることとなります。その後、将棋のプロ棋士の養成機関である奨励会に入門し、いよいよ、プロ棋士を目指すのが中学2年生からです。
プロ棋士になるためには、26歳までに奨励会の3段まで昇格し、3段リーグで勝ち残り、4段に昇格しないとプロ棋士になれないそうです。従って、年齢の壁があります。彼は、14歳で奨励会の6級として入門し、3段まで、取りあえず順調に進みましたが、4年間、3段リーグで懸命に頑張るものの、遂に、年齢制限を迎え、4段に昇格することができずに、すなわち、プロ棋士を目前に奨励会を退会しなければならなくなります。
その後、大学の二部に通いながら、一時は、将棋から離れますが、ある時、幼友達から将棋の別の楽しみ方を教えられ、アマとして、将棋を楽しむようになり、アマとしての全国大会に優勝します。
大学卒業後も、就職し、サラリーマン生活の中で、アマ棋士として活躍しますが、若い時に目指したプロ棋士への夢が忘れられず、再び彼は、プロ棋士への挑戦の道を歩みます。ちょうど、プロ・アマ戦で抜群の成績を修め、プロ棋士からも、彼をプロ棋士にする道を開こうという気運が起こり、遂に、彼は、日本棋院に嘆願書を提出します。
それを受けて、日本棋院では、棋士総会を開催して、彼のプロテストとして、プロ棋士との6番勝負を行うことを決定します。その勝負で、彼は、3勝を挙げ、見事、4段に認定され、彼が、子供の頃から目標とし、夢にまで見たプロ棋士のスタートを切ることができたのです。
少し長い紹介となりましたが、瀬川晶司の夢にかけた情熱と行動力には、感心させられます。しかも、その夢を実現させたのです。もちろん、彼の努力だけではなく、周囲の応援もあったでしょうし、また、運も良かったのだと思います。人生、目標や夢の叶う人は、多くはありません。多くは、夢を実現できずに、平平凡凡と日々の生活を送っているのです。そういった現実の中で、彼には、夢を実現させることができたことに「おめでとう」と素直に言いたくなる。そういった、小説でした。それとは別に、この本で、将棋界を垣間見ることもできました。