無銭優雅

無銭優雅

■無銭優雅
「無銭優雅」2007年の山田詠美(ヤマダアミ)さんの大人の恋愛小説です。エイミさんとお読みするのかと思っていましたが、正しくはアミさんとお読みするようです。山田さんは、今や、女流作家の旗手ともいえる人です。2007年に三島由紀夫に次いで、若くして芥川賞選考委員に就任しています。デビュー当時は、いろいろと話題の多かった人ですが、残念ながら、その作品をお読みする機会がありませんでした。
最近は、図書館で新着本の中から、面白そうな小説を探して、乱読しているため、今まで、読む機会を持たなかった作家の小説を読むことができます。小説でも、映画でも、テレビドラマでも、読み始め、見始めは、その世界に入り込むことができないものですが、小説であれば、おおむね三分の一程度まで読み進み、ストリーが進んでくると、不思議な事に、段々と、その世界に入り込んで行くものです。映画やテレビドラマでは、ビジュアルに出演者を見ることができるので、お気に入りの俳優さんが出演していると、何となく、ご贔屓に見てしまうものです。
小説の場合には、その描かれた世界に、どれだけ早く入ることができるか、若しくは、入らせることができるか、これが、その小説の評価だと思います。もちろん、小説にも、ご贔屓の作家であれば、おおむね、文章に慣れているので、入りやすいということは言えると思います。私で言えば、以前は、城山三郎さんの経済小説池波正太郎さんの時代小説、司馬遼太郎さんの歴史小説などは、読み尽くして、常に、新刊はないかと本屋を漁ったものですが、残念ながら、皆さん、お亡くなりになられたので、新刊本は、もう、出ません。
そうすると、新しい作家さんの小説を開拓しなければなりませんが、最近は、女流作家が花盛りで、しかも、大人の恋愛小説や若い人向けの恋愛小説などが多くて、この作家さんを贔屓にして、追いかけようという方が、見当たらないというか、開拓できていないというのが、少し、残念です。ただし、こちらも、年を重ねるうちに、現代の小説の風潮に馴染めずに、ついつい、昔の作家の小説に回帰してしまうという傾向もあります。
さて、山田詠美(ヤマダアミ)さんの「無銭優雅」は、45歳の小さな花屋を友人と経営している独身の慈雨という名の女性と45歳の学習塾の先生をしている離婚歴のある栄という名の男性の恋愛小説です。小説の幕間に、21回、昔の著名な小説家らの小説などからの引用文が出てきます。これが、何を意味しているのかが、よく解りませんが、堀辰雄の「風立ちぬ」から始まり、最後に壷井栄の「あたたかい右の手」の文中の引用です。山田さんのお気に入りの小説のお気に入りの箇所を引用して、「無銭優雅」の場面の転換に利用しているのでしょうか。最後まで、この手法を貫いており、この小説の結びは、次のフレーズです。

私と同じ名前を持つ物語の中に棲んでいた女の子は、ある日、列車の中で押しつぶされて、たったひとりきりで、死んだ。

この慈雨という名前の主人公の小説が、あるのだと思いますが、それは、書かれていませんでした。最後に、山田さんは、読者に宿題を出したのでしょうか?