「破滅への疾走」

破滅への疾走

「破滅への疾走」
高杉 良
新潮文庫
昭和20年4月1日発行
514円

珍しく休日前夜の眠れぬ夜を、小説を読みながら明かしてしまいました。大方は、1週間の疲れもあり、金曜日の夜は、眠れぬことはないのですが、テレビで放映していた「インデ―ジョーンズ」を楽しんで、23時30分ごろ自室に戻って、ベッドに横になりながら、土曜競馬の予想を考えた後、小説を読みながら寝ようとしました。一度は、うとうととして眠りに付いたのですが、1時頃、何となく目が覚めてトイレに行き、再び、寝ようとしましたが、どうも寝つけそうにないので、読みかけの小説を読み始めました。
途中で、睡眠導入剤を服用しましたが、効き目がなかったようです。不眠症と肺結核は、文人の勲章などと言うことも聞いたことがありますが、私は、文人ではないので、私が不眠症でも、ちっとも勲章にはなりませんが、どうにも、3年ぐらい前から、悩まされています。経済小説の先駆者である城山三郎さんは、40代のころ、不眠症に悩まされ、入院し、その時に、ゴルフを勧められ、ゴルフを嗜むようになって、不眠症から逃れたそうです。「檸檬」の梶井基次郎は、肺炎願望があり、肺炎になって、追い詰められて始めて文学が書けると信じており、願望通り肺炎になりましたが、それが原因で若くして昇天してしまいした。
ところで、夜を徹して読了した小説ですが、高杉良さんの経済小説です。自動車産業の労使関係が題材ですが、読み進むに従い、これは、実話を素材にして小説化していることに気が付きました。有名な日産自動車の労使問題です。もちろん小説の中では、会社名、人物名は、すべて実在の名前ではありません。実在の方を紹介すると、2人の天皇と呼ばれた日産の経営者川又克二と自動車労連会長の塩路一郎が主役です。日産自動車の川又克二は、1950年代から30年間、日産自動車に君臨し、日産自動車プリンス自動車と合併させ、業界二位に引き上げるなど、会社業績の向上に多大の功績を残した一方、激しい労働運動に対応するため、自動車労連の会長の塩路一郎と癒着し、経営と人事への介入を容認したことにより、会社経営に禍根を残したことは批判の対象となりました。
この小説の最後に「錆は鉄より生じて、やがて鉄そのものを滅ぼす」と締めくられています。企業内組合の会長が、会社の経営と人事に深く介入することを許した経営者。そのことに乗じて労働者の権利を守ることを忘れた企業内組合の会長。その両者を錆と切り捨てて、その錆が、やがて企業の経営に暗雲をもたらす元凶であると作者は、主張しているのでしょう。テンポの良い筆致で、一夜にして読み下してしまう経済小説でした。
不眠の私は、それでも、今朝は、元気にテニスに出掛けましたが、さすがに昼食後に、1時間ほど御昼寝をしました。私のベッドの横には、次の小説が細君の作ってくれたブックカバーに収まっています。