「いつか陽のあたる場所で」

いつか陽のあたる場所で

「いつか陽のあたる場所で」
 乃南アサ
 新潮社
 平成19年8月20日発行
 1500円(神戸市立図書館)

小森谷芭子。裕福な家庭に育つが、大学時代に歌舞伎町のホストに貢ぐために、テレクラで出会った男性を昏睡させ、金品を盗み、昏睡強盗の罪で、懲役7年を刑務所で服役。親兄弟には、仮釈放の身元引き受けもしてもらえずに、刑期満了で釈放。
江口綾香。ドメステック・バイオレンスに耐えきれず、夫を殺害し、殺人罪で、懲役5年を刑務所で服役。刑期満了で釈放。
20代後半と40代前半の2人の女性が、釈放後、東京の下町「谷中」で、ひっそりと世間を憚りながら、暮らしています。
主人公の芭子は、親兄弟、親戚から絶縁され、「谷中」の亡くなった祖母の家をあてがわれ、そこで1人住まいをしながら、治療院の受付のアルバイトしながら生計を立てています。綾香は、芭子の近所に住み、パン屋さんで働きながらパン職人を目指しています。2人は、刑務所で親しくなり、釈放後も連絡を取り合いながら、お互いの前科を他人に知られないように、近所のうわさ話にビクビクしながら、警察官を見れば避けながら、それでも、何とか、未来を目指して、生活しています。

「ねえ、綾さんは、急に怖くなったりすることなんか、ない?」
「何を?」
「だから −昔の顔見知りに会ったらどうしよう、とか、たとえば今のお店に、本当のことがバレたら、どうしようか、とか」
綾香は「ないよ」と、いともあっさり首を振った。
「そうなったら、なったときだし。もしも、そんなことになったって、生命まで取られるようなことは、ないからね」
「−生命まで」
「でしょう?そう考えれば、怖いことなんか、ない。第一 −他の誰よりも。絶対に会いたくない相手は、いなくなってるんだし。私の場合」
綾香は諦めたような微笑みを浮かべて、それから小さくため息をついた。

2人は、そんな生活の中でも、様々な出来事に巻き込まれます。近所のお寺で発生する仏像の盗難事件、芭子の勤める治療院でのセクハラ、綾香はカラオケスナックのママにお金を騙し取られる。そして、芭子は、弟から弟の結婚のために、戸籍からの分籍と相続人廃除を求められる。
2人は、重い過去を背負いながらも、何時になったら、そんな過去を清算できるのか?きっと、永遠に過去の清算などできないでしょうが、過去に未来を上書きすることはできると思います。頑張れ!芭子さん、綾香さんとエールを送りたくなるような小説でした。