「タックス・シェルター」

タックス・シェルター

「タックス・シェルター」
幸田真音
新潮文庫
平成20年4月1日発行
743円

「タックス・シェルター」(租税回避策)。西インド諸島を構成するケイマン諸島。世界地図を広げるとカリブ海に浮かぶ小さな島々です。この小説の舞台は、日本ですが、もう一つの舞台がケイマン諸島です。ケイマン諸島は、税金が免除されるタックス・ヘイブン(Tax haven)と呼ばれる租税回避地です。そのため、オフショア(Offshore)(外国の投資家や企業の資産管理を受け入れる金融機関の租税回避)やバンキングが盛んで、ここに資産運用会社や特別目的会社(SPC)(Special Purpose Entity)(事業目的のない資産管理のみのペーパーカンパニー)置く会社や金融機関が多いとのことです。余談ですが、タックス・ヘブン(税金天国)、タックス・パラダスとタックス・ヘイブンは、意味が違います。
谷福証券の財務部長である深田道夫は、谷福証券の社長谷山福太郎から、生前、個人資産の管理会社として設立したケイマン諸島のSPCの管理を任されます。ところが、管理を任された後すぐに、谷山は急に亡くなり、残されたSPCの管理に深田は、途方に暮れることになります。
東京国税局調査部国際税務調査官宮野亜紀。何故、彼女がこの職業を選択したか。

「毎年、子供一人当たり国税地方税とを合わせて年間85万3千円の教育費が必要よ。この教育費を集めることに、自分が少しでも役立っていると思わなければ、私たちの仕事ってやってられないこともあるじゃない?」

彼女は、離婚後、母親と一人娘と同居しているが、娘の養育は母親任せで、毎日の仕事に埋没している。
小説は、深田道夫と宮野亜紀のまったく接点のないそれぞれの生活、仕事から始ります。
深田は、谷山から管理を任されたSPCの資産の運用を、ふとした縁から稗田明日美というヘッジファンドのプロフェショナルに任せるとこととなりますが、この辺りから、幸田真音さんの小説の真骨頂である金融取引の内幕が披露されます。

ケイマン諸島だけではなく、バミューダ島バハマ諸島とか、オランダ領のアンテイル諸島やアルバ島とか、さらにはバルバドスやグレナダなど、カリブ海にはたくさんのタックス・ヘイブンがあります。軽課税を看板にして、法人も個人も含め、海外からの資金の誘致を目的とする地域です。」
「税制以外にも、タックス・ヘイブンとして成立するだけの物的なインフラ整備をしているのです。たとえば、こうした国々のほとんどが、なにより資金調達や運用が自由な域外金融センターを備えていますからね」
「こういう地域は、海外と租税条約も結んでいないし、外貨規制もしていませんしね。国ぐるみで、銀行の守秘義務を尊重したり、いってみれば、税制と金融を一体化したタックス関連産業とでも言うか、そういう分野の振興を目指している。」

しかし、この地域でのドルを国内に持ち込むと、課税されます。さて、ある時、不用意にも、深田がキャシュカードを宮野に見られてしまいます。アクシデントです。このカードナンバーは、外国金融機関のナンバーであり、SPCの存在を匂わせるものでした。
結末は、思わぬ方向へ進みます。タックス・シェルターを題材とした幸田真音さんの国際金融に係る新しい経済小説です。