「はじめての文学」

はじめての文学

「はじめての文学」
 重松清
 文藝春秋
 平成19年7月15日発行
 1238円(神戸市立図書館)

「はじめての文学」のシリーズ3冊目を読了しました。
私が体調を崩していた頃、小説を読むことが好きな私が小説を読むことさえ億劫になっていました。そんな時期が、2005年8月頃からおおよそ半年間続きました。やや体調を持ち直して、2006年2月頃だったと思いますが、久しぶりに読んだ小説が、小川洋子さんの「博士が愛した数式」と重松清さんの「ビタミンF」です。三宮の「ジュンク堂書店」で新潮文庫のこの2冊を購入して、この2冊の本を読了した時は、何ともいえない達成感というか、喜びを感じたものです。
重松清さんは、1963年生まれなので、私より、ちょうど10歳も若くて、しかも、同郷の山口県の出身で山口高校を卒業しています。山口県の出身と聞くと、何となく親近感を感じるのは、年齢の所為(せい)でしょうか?「ビタミンF」は、短編集で2000年直木賞の受賞作です。「げんこつ」「はずれくじ」「パンドラ」「セッちゃん」「なぎさホテルにて」「かさぶたまぶた」「母帰る」の5編です。2002年には、NHKでテレビドラマとしても放映されました。重松さんの小説は、子供を主人公とした小説が多く、子供の心理の複雑さを解りやすく描写しているのが特色です。
「はじめての文学」に収録されている8編も、すべて子供が主人公です。
「卒業ホームラン」は、智くん(小学6年生)「モッちゃん最後の1日」は、望月和宏(小学6年生)、「ウサギの日々」は、ヒロシ(中学1年生)、「かたつむり疾走」は、武井裕樹(高校1年生)、「カレーライス」は、ひろし(小学6年生)、「タオル」は少年(小学5年生)、「あいつの年賀状」は、ぼく(おそらく小学生)、「ライギョ」は、少年(小学5年生)。
「カレーライス」は小学5年生の国語の教科書に掲載されていますし、「タオル」と「ライギョ」は「小学5年生」に掲載されているそうです。子供にも読みやすい文体で、子供の子供らしい行動や子供の気持ちを表現しており、そのことに真正面から向き合った児童文学の一つの新しい分野とも思われます。
「卒業ホームラン」は、少年野球団の最後の試合に、監督として親として、最後の試合に智くん(息子)をレギュラーに選ばない監督で親の気持ちと、そのことを選手として子供として、キチンと受け止めている智くん。私も、少年サッカーのコーチをしていて、そういった場面を経験したことがあるだけに、何となく、自分の過去を振り返るような気持で、読むことができました。

―がんばれば、いいことがある。努力は必ず報われる。そう信じていられるこどもは幸せなんだと、いま、気がついた。信じさせてやりたい。おとなになって、「おとうさんの言ってたこと、嘘だったじゃない。」と責められてもいい、14歳やそこらで信じることをやめさせたくない。だが、そのために何を語り、何を見せてやればいいのかが、わからない。―

子供と一緒に、是非、親も重松さんの本を読んでみることを薦めます。私は、もう、子育てが終わり、そこには、振り返ることしかできなくなってしまいました。