「西の魔女が死んだ」

西の魔女

西の魔女が死んだ
梨木香歩
新潮文庫
平成13年8月1日発行
平成20年7月15日64刷
400円

まいの手の中にあったのは確かにあの銀龍草だった。銀細工のような不思議な花。二年ぶりで見るその花は。こんな時でさえ、まいの目をくぎづけにする。
まいはおばあちゃんがしていたように一輪差しに銀龍草を生け、おじいちゃんの写真の前に飾った。
それから、あの懐かしいヒメワスレグサにも水をやりに台所のドアの間に行き、腰をかがめ、何げなくあの汚れたガラスに目を遣った。そのとたん、電流に打たれたようなショックを感じてそこに座り込んでしまった。
その汚れたガラスには、小さな子がよくやるように、指か何かでなぞった跡があったのだ。
「ニシノマジョ カラ ヒガシノマジョ ヘ
 オバアチャン ノ タマシイ、 ダッシュツ ダイセイコウ」

小説の最後の1節を紹介しました。
中学でいじめが原因で不登校になってしまった孫娘のまいは、田舎のおばあちゃんの家で一月余りを過ごします。ママは、おばあちゃんのことを西の魔女と呼んでいます。西の魔女は、英国人ですが、日本人のおじいちゃんと結婚して、ママが生まれました。おじいちゃんは、亡くなり、西の魔女は、一人で、田舎の暮らしを楽しんでします。その田舎の暮らしは、何となく、イギリスの田舎を彷彿させるような趣があります。そこで、まいは西の魔女から、魔女になるための手ほどきを受けます。魔女になるための手ほどきとは・・・。それは、この本を読んでみてください。
今年これまで読んだ小説のうち、もっとも感動した小説です。細君にも、東京の東の魔女が入院したので、そのお見舞いに行くための新幹線での読み物として、勧めました。細君からは、新幹線の中から、「これって、ターシャ・テューダーがモデルじゃないの?」というメールがきました。「誰?それ?」と返すと、「NHKの番組で見たよ!」ということです。
ターシャ・テューダー」は、アメリカの絵本画家、園芸家で、彼女の描く絵は、「アメリカの心を表現する絵」と言われているそうです。バーモント州の片田舎で自給自足の生活をしながら、庭に季節の草花を育てるライフスタイルが、日本でも注目されているとのことです。
そういえば、この小説では、多くの木々や草花そして自然と自給自足の生活が、大事な脇役です。
児童文学のジャンルになると思いますが、この夏、お薦めの1冊です。