「きみの友だち」

君の友だち

「きみの友だち」
重松 清
新潮文庫
平成20年7月1日発行
590円

十一歳の誕生日のプレゼントは、新しい松葉杖だった。銀色のアルミ製―「脚」の途中についているゴムのアジャスターで長さの調節できる仕組みだ。

 恵美ちゃんー僕はこれから、きみと、きみにかかわりのある何人かの子供たちの話をしようと思う。
 最初は、きみだ。

 恵美ちゃん。きみは、小学校5年生のときに、不幸な事故で左足が不自由になってしまいましたね。それまで、クラスの仲間とも、元気に、力いっぱい、話したり、遊んだり、していたのに、その日から、きみは、変わりました。
 そんな恵美ちゃんが、この小説の主人公ですが、連作になっており、恵美ちゃんの周りにいる子供たちが、交互に主人公になります。
 弟の頭がよくて、スポーツ万能の「ブンちゃん」。「ブンちゃん」のライバルで、そして、「ブンちゃん」の親友の「モトくん」。恵美ちゃんの同級生の「堀田ちゃん」、「ハナちゃん」、「西村さん」。「ブンちゃん」と「モトくん」の同級生の「三好くん」とサッカー部の先輩「佐藤くん」。そして、「由香ちゃん」きみは、腎臓病で激しい運動もできなくて、早く歩くこともできなくて、恵美ちゃんと、いつの間にか友だちになりました。恵美ちゃんにとって、一番、大事な、唯一無二の友だちでした。「もこもこ雲」の傍に逝ってしまいましたね。

 恵美は笑顔のまま、みんなを見つめる。一人ずつ顔を確かめるように、小刻みにうなずきながら。うわっ、と驚いた顔をしながら。照れくさそうに肩をすくめながら。
 小さく会釈したのは、由香ちゃんの両親と目が合ったとき。へえーっ、あんたらも一丁前になったじゃない、といらずらっぽい含み笑いになったのは、三好くんや佐藤くんを見つけたときだろう。
 涙ぐむモトを見て、なにやってんの、とあきれ顔で首をかしげたくせに、つぎの瞬間―堀田ちゃんとハナちゃんと西村さんと目が合うと、そんな強がりは吹き飛んで、笑顔はたちまち泣き顔に変わりかけて、それでも、ふん、と拗ねたような目をそらして、涙はこぼさない。
 恵美ちゃん、きみはそういう女の子だ。子供の頃から、ずっと。
そんなきみのために、友だちが集まってくれた。数は少なくても、そのぶん深い拍手を送りつづけてくれる。それを僕は、なによりも、ないよりも、幸せなことだと思う。

 自分にとって、「友だちって?」。それが、この小説の主題です。もし、今、あなたの思っている友達が、不幸にして亡くなったとき、あなたは、お墓参りをしますか?あなたが、不幸にして亡くなったときに、お墓参りをしてくれる友だちが、いますか?