「日月めぐる」

日月めぐる

「日月めぐる」
諸井玲子
講談社
2008年2月27日発行
1600円(神戸市立図書館)

久しぶりの時代小説です。なぜ、時代小説とか、時代劇というのでしょうか?江戸時代以前を題材とした小説や映画などを時代小説、時代劇と呼んでいます。これは、歌舞伎や戯曲の世界で戦国時代以前を描いたものを、時代物と呼称していたことに由来しているものと思われます。
さて、舞台は、現在の静岡県清水市付近、駿河国の小島藩という小藩での物語です。小島藩は、元禄年間に松平信孝が4000石の旗本から加増されて、1万石の諸侯に列して立藩した藩です。財政は困窮を極め、武士の暮らしも領民の暮らしも、豊かではなかったようです。藩と言っても城を築城することはできず、高台に陣屋がある程度で、その陣屋跡の石垣が、今でも、残っています。
第9代藩主松平信進のときに、紙産業を興し、「駿河半紙」として貴重がられ、漸く、財政に一息をついたようです。

駿河半紙は、原村に住む渡辺兵左衛門が三椏(ミツマタ)を紙の原料として発見して以来、急速に広まったもので、歴史は浅い。だが、従来の楮(コウゾ)で作った紙より、丈夫で上質な紙ができるというので、高級品としてもてはやされた。
三椏は紙の原料となる太さに枝が生長するまでに三、四年かかる。ただしその後は毎年刈り取ることができるという。』

この小説は、7話で構成されていますが、この7話に共通しているのが、小島藩の武士または領民の話であること、そして、紙作りが、関連していること、さらに、興津川の上流の岩場にある渦です。この渦を、諸井さんは、人生にたとえています。

『両側に迫った山のせいで狭まった流れを、ごつごつした岩がなおもさえぎろうとしている。さえぎられてたまるかと、川の水は怒ったように飛沫を噴き上げ、ぬれそぼった黒い岩に挑みかかる。
けれど、いがみ合っているだけではなかった。ここには調和があった。薄青と紺と藍と紫苑と群青と縹色(ハナダイロ)と裏葉色(ウラハイロ)と御納戸色と浅葱色(アサギイロ)と、そしてかがやく紺碧・・・・・・水にかかわるありとあらゆる色の濃淡が、きらめく陽光と溶け合って、渦という摩訶不思議な世界を創り出している。』

水にかかわるありとあらゆる色を表現していますが、縹色は、薄青色、裏葉色は、鶯色に近い薄緑、御納戸色は、ねずみ色がかった藍色、浅葱色は、ごくうすい藍色、ですが、日本独自の色合いで、特に着物の染色の表現方法です。色の表現方法も、様々な方法がありますが、諸井さんは、日本の伝統色のなかから、特に、緑、青、紫系統の色から水の色を表現しています。時代小説ですから、これを、コンポーズブルー、セルリアンブルー、コバルトブルー、パーマネントグリーン、ミネラルバイオレットなどと表現するのは、野暮でしょう。
日本の色の表現方法には、ほんとうに情緒を感じます。渦が、様々な色をなしており、人生が様々な色をなしている。これが、この小説の主題でした。