「勝利の競馬、仕事の極意」

勝利の競馬

「勝利の競馬、仕事の極意」
角居勝彦
廣済堂出版
2008年5月1日発行
1600円(神戸市立図書館)

角居勝彦を知っていますか?競馬を嗜む人は、殆どの方が知っていると思いますが、JRAの調教師です。デルタブルース菊花賞馬)、カネヒキリ(ダートの王者)、シーザリオオークス馬)などの管理馬を育ててきましたが、何と言っても、彼を、一躍、有名にしたのが「ウォッカ」です。
昨年の日本ダービーで、牝馬としては、64年ぶりに勝利に導きました。73回の日本ダービーの歴史の中で牝馬が勝利馬になったのは、「ウォッカ」が3頭目でした。そのレースは、今でも記憶に残っています。東京競馬場の4コーナーを回って、直線に入って、その馬場のど真ん中を駆け抜け、2着アサクサキングスに3馬身の大差をつけて、堂々たるトップゴールを演出しました。
その後、角居調教師の調教スタイルが注目されました。競争馬の調教は、調教師、調教助手、厩務員の三位一体で1頭のサラブレッドを育て上げるのが常識でした。いわば、職人の世界のような仕組みです。しかし、角居調教師は、この三位一体の調教スタイルを残しながら、厩舎を一つの企業のように、管理馬をチーム全体で育て上げるスタイルを採用しました。
調教も、馬を鍛え上げるという調教から、並み足を基本としたトレーニングスタイルの調教に変えて、サラブレッドの本来の能力を引き出すという考え方を貫いています。その結果、2001年の開業から僅か7年間で、JRA重賞レースを22回も勝ち取っています。
そんな角居調教師のサラブレッドに対する思いは、「ものを言わないサラブレッド」に対する愛情でした。

サラブレッドはしゃべれない。
どんな扱いを受けようが、ただ、黙って、人間にすべてをゆだねて生きていく。
馬が生を受けるとき、父馬と母馬は、人間が人間の都合で選んだ種牡馬繁殖牝馬である。生まれた子馬は、人間の都合で厳しい育成を受け、人間の都合で売買される。そして、人間の都合で激しいレースを闘わされ、これに勝ち抜いて生き残れば今度は、人間の都合で父馬や母馬として優れた血を伝えることを求められる。
彼らの生涯は、すべて人間の都合によって支配されているのである。
それでも、サラブレッドはしゃべれない。

私は、毎週競馬を楽しんでしますが、この人間の勝手なレジャーに、しゃべらないサラブレッドは、その生涯をささげているのです。
今週の毎日王冠は、ウォッカ単勝1.5倍のダントツの一番人気。ゲートが開くと、ウォッカが先頭に躍り出て、逃げる。これまでのレースでは、中段、好位からの競馬が多かったので、観覧席から大きな歓声がわく。それでも、向こう正面、3コーナー、4コーナーを回って、逃げる。ダービーを勝った東京競馬場の直線コース、誰もが、ウォッカの勝利を信じたが、馬群の好位から抜け出してきたスーパーホーネットウォッカに迫る。わずかに、ゴール手前、スーパーホーネットウォッカを差し切る。見事な、スーパーホーネットの雪辱でした。
前走の安田記念では、ウォッカが2番人気で1着。1番人気のスーパーホーネットは、8着に敗れていました。