私と物理学

寺田全集

今年は、ノーベル物理学賞高エネルギー加速器研究機構小林誠名誉教授、京都大の益川敏英名誉教授、シカゴ大学名誉教授の南部陽一郎の3人の日本人が選ばれました。
まことに、おめでたいことであり、また、故湯川秀樹氏が「紙と鉛筆で研究できる」と言って、日本人初のノーベル物理学賞を受賞し、戦後の日本の燭光となって以来、物理学は、いわば、日本のお家芸のようになったと言われています。
私は、文系なので、高校時代に物理の授業を受けて以来、「物理学」なるものに接触する機会もないので、いったい、「物理学」が如何なることを研究し、その研究が、どのように社会に役立ち、人類のために何を与えるのか、さっぱりの門外漢です。
今回受賞された、南部氏が「素粒子物理学と核物理学における自発的対称性の破れの発見」、小林、益川氏が「クォークの世代数を予言する対称性の破れの起源の発見」が授賞理由として報道されていますが、さてさて、何のことかさっぱりです。
何のことか解らなくても、とりあえず、日本人がノーベル賞を受賞するということは、オリンピックで金メダルを取ることと同じように、門外漢には、おめでたいことと喜ぶしかありません。
そこで、オリンピックと同様に、ノーベル賞(物理学賞184人)の国別の受章者数ベスト10を調べてみると、アメリカ(80人)、ドイツ(24人)、イギリス(20人)、フランス(12人)、旧ソ連(10人)、オランダ(8人)、日本(6人)、スウェーデン(4人)、スイス・デンマークオーストリア・イタリア(各3人)という結果でした。
さて、私は、物理学については、まったくの門外漢ですが、私の愛読する随筆の著者である寺田寅彦博士は、物理学者であり、すぐれた随筆家です。随筆の中には、物理学をテーマにした作品が多数あります。その随筆を読みながら、私は物理学を垣間見ることができます。ただし、寺田博士が活躍したのは、明治後半から大正年間ですから、今から、80年以上も昔の時代です。
寺田博士は、物理学の応用について、次のように述べています。

『物理学は基礎科学の一つであるからその応用の広いのは怪しむに足らぬ。生命とか精神とかいうものを除いたいわゆる物質を取り扱って何事かしようという時にはすぐに物理学的の問題に逢着する。吾人が日常坐臥の間に行っている事でも細かに観察してみると、おもしろい物理学応用の実例はいくらでもある。ただ、それらは習慣のためにほとんど常識的になっているのでそれと気がつかないだけである。』

寺田博士の随筆には、題目に「物理学」と文字のある作品が沢山あります。寺田寅彦全集から拾い出してみました。
「物理学の応用について」「物理学と感覚」「物理学実験の教授について」「日常身辺の物理的諸問題」「物理学圏外の物理的現象」「神話と地球物理学」
この機会に、これらの随筆を読み返して、物理学に親しみを持つってみることとします。
そう言えば、最近話題の湯川学准教授も物理学者です。と言っても、こちらは、小説の世界ですが、「容疑者Xの献身」は、ただいま上映中です。かれが、難事件を解明するときに、突然、訳のわからない数式を所構わず書き始めますが、ノーベル賞を受賞された増川教授の報道映像でも、同じように紙に鉛筆で訳のわからない数式を書いているのを見て、物理学者というものは、そうしたものなのかな?と妙な感心をしてしまいました。