「鬼平とキケロと司馬遷と(歴史と文学の間)」

鬼平とキケロ

鬼平キケロ司馬遷と(歴史と文学の間)」
 山内昌之
 岩波書店
 2005年3月23日発行
 1800円(神戸市立図書館)

鬼平」とは、ご存じ火付盗賊改方長谷川平蔵」。池波正太郎の連載小説「鬼平犯科帳」の主人公です。文春文庫で全24巻。亡くなった親父が文庫本のカバーの背表紙に震える手で筆ペンによる題字を書いていました。テレビドラマでも人気のシリーズ。主役の鬼平は、松本幸四郎(8代目)、丹波哲郎萬屋錦之助中村吉右衛門錚々たるメンバーです。
話はそれますが、同じ、池波正太郎の連載小説「剣客商売」。こちらも文春文庫で全16巻に番外編2巻。私が、買い揃えて、実家に送りました。こちらもテレビドラマでも人気のシリーズ。主役の秋山小兵衛に山形勲中村又五郎藤田まこと。秋山大治郎に加藤剛渡部篤郎山口馬木也。私は、こちらの方が好きでした。いずれも、江戸情緒を漂わす池波ワールドが演出されています。
キケロ」とは、紀元前100年ごろの共和制ローマ期の政治家、哲学者であり、紀元前50世紀ごろのカエサルらによる三頭政治の以前に、執政官としての「国家論」などの演説が現存しています。その思想は、マキャベリモンテスキューなどに承継され現代民主主義の基本となっています。
司馬遷」とは、紀元前150年ごろの中国の歴史学者であり、中国の歴史書史記」の著者です。「史記」は、歴史学を志す人たちのバイブル的な書物ということです。
この本には、何が書いてあるかと言うと、著者である山内昌之氏は、歴史学者であり、イスラム世界を専門とされています。この本は、シリーズ「グーテンベルクの森」からお届けする、書き下ろし読書エッセーであり、様々な道の専門家の書評のようなものです。この本は、山内氏の読まれた本の書評です。
キケロ」や「司馬遷」などは、私には、とても読む気の起こらない世界の書物ですが、最初に紹介された「鬼平犯科帳」これは、面白く読めました。山内氏は、イスラム世界を専門とする歴史学者ですが、日本をはじめ中国などの歴史書、そして、読みやすい本、面白い本を、いろいろ読まれており、紹介された本のうち、読んでみたいと思うものが数冊ありました。

高瀬昌弘「鬼平犯科帳人情噺 私と長谷川平蔵の30年」(文春文庫 2003年)
藤沢周平天保悪党伝」(新潮文庫 1992年)
宇佐江真理「春風ぞ吹く」(新潮文庫 2003年)
中村彰彦「いつの日か還る」(文春文庫 2003年)
杉本章子「間諜 洋妾(ラシャメン)おむら」(文春文庫 2004年)
司馬遼太郎「故郷忘れじがたく候」(文春文庫 2004年)

年末年始のお休みの宿題が沢山できました。

(番外)
江戸末期 1両で1石(1000合)の米をあがなうことができました。
すると、現在価値に置きなおすと 当時の1石は籾米として、籾米1合(110g)これを精製して、玄米0.5合(78g)さらに精製して、白米0.4合(65g)とすると、1両で65kの白米が買えることになる。10kが5,000円として、1両は、32,500円に相当する。この計算によると1万石の大名は、3億2千5百万円の収入ということになるが、本当かな?

(番外2)
乃木希典将軍の殉死について、漱石の「こころ」を引き合いにして、漱石と乃木将軍というエッセーがあります。その一節に、乃木将軍の漢詩が引用されています。日露戦争時に読まれた漢詩を、昔、読んだ記憶があります。乃木将軍は、私の故郷の出身であり、私の母校(高校)の校歌にも、その名前が謳われています。

山川草木転荒涼(さんせん そうもく うたた こうりょう)
十里風腥新戦場(じゅうり かぜ なまぐさし しんせんじょう)
征馬不前人不語(せいば すすまず ひと かたらず)
金州城外立斜陽(きんしゅう じょうがい しゃようにたつ)

爾霊山険豈難攀(にいれいさんのけん あによじがたからんや)
男子功名期克艱(だんしこうみょう かくかんをきす)
鉄血覆山山形改(てつけつやまを おおいて さんけいあらたまる)
万人斉仰爾霊山(ばんにん ひとしく あおぐ にいれいさん)

皇師百万征強虜(こうし ひゃくまん きょうりょうをせいす)
野戦攻城屍作山(やせんこうじょう しかばね やまをなす)
愧我何顔看父老(はず なんのかんばせあってか ふろうにまみえん)
凱歌今日幾人還(がいか こんにち いくにんか かえる)