「美丘 mioka」

美丘

「美丘 mioka」
石田衣良
角川書店
平成18年10月31日発行
1500円(神戸市立図書館)

また、泣いて下さい。今年は、「いま 会いにゆきます」に続いて、泣く小説に当たります。
石田衣良(イラ)氏の本を読むのは初めてですが、テレビのクイズ番組などにも出演されており、人気作家のひとりです。そうそう、石田氏の原作で、上戸彩主演の「下北サンデーズ」というテレビドラマは見たことがあります。

『美しい丘と書いてミオカ。
それが君の名前だった。
きみはそれなりに美しかったけれど、実際にはすごい美人というわけではなった。特別に目を引くほどかわいくもなかった。なによりも性格に問題があったのだ。美しい丘というよりも、嵐の丘という感じだった。』

本のカバーは、裸の男女が抱き合った写真です。図書館で、本を選んでカバーを見て、ちょっと躊躇しましたが、石田氏の本を読んだことがなかったので、思いきって書棚から、この本を選択しました。
主人公の「ぼく」は、東京出身、東京育ちの橋本太一。東京の青山にある大学の経済学部2年生。太一には、福島出身の北村洋次、横浜出身の笠木邦彦、そして、長い黒髪の日本型美人の五島麻里、金髪のショートヘアで泣き虫の佐々木直美の4人の友人がいます。
小説は、この5人のグループに峰岸美丘が参入する経緯(いきさつ)から始まります。暖かな11月の学園の屋上、そして、学生食堂で、太一は、美丘の突拍子もない行動に出くわしました。そこから、太一と美丘の13か月の楽しい、そして、悲しい物語が始まります。何故、13か月なのか、何故、私が泣いてしまったのか、それは、是非、この小説を読んで「ああ、そうなのか。」と感じてください。

『覚えているかな。
ぼくは1年間とすこし、きみをじっと見ていた。最初はめずらしい動物でも見るように、なかばからは世界でただひとりの女性として、最後の3ヶ月はきみをきみらしくしていたものが、ゆっくりと壊れていくのを目撃し続けたのだ。きみのことを思いだすたびに、ぼくは今でも泣いたり笑ったり、欲情したりを繰り返している。』

小説のなかで、登場人物のファッションが、こまかく描写されています。若い人の服装のことは、よく解りませんが、何となく、街で見かける若い人の格好を頭に描きながら読めます。

『美丘だった。振りむくと男まえのきみが立っていた。そのときの格好を、ぼくははっきりと覚えている。紺のダッフルコートにワンウオッシュのスリムジーンズ。髪はキャップのなかに押しこまれて、きみは少年のようだった。』

もうひとつ、空を表現しているシーンが随所にあります。この空の表現が、季節ごとに、また、主人公の置かれている状況に応じて、様々な変化をみせます。この小説は、石田氏の自然の描写の巧みさを感じてもらうのも、もう一つの楽しみではないでしょうか。

『冬の夕日は早かった。四時半には渋谷の空はすっかり暮れて、青ガラスのように澄んでいる。もともとビル街で、空はスライスチーズくらいの厚さでしかないから、夕日など見えるはずもない。』