「銀河不動産の超越」

銀河不動産

「銀河不動産の超越」
森 博嗣
文藝春秋
2008年5月30日発行
1381円(神戸市立図書館)

森 博嗣氏のプロフィールは、この本には書かれていません。『ウィキペディアWikipedia)』で調べてみると、「出身校や勤務先などの経歴は非公開」となっていますが、さらに「国立大学の助教授として「粘塑性流体の数値解析手法」の研究を続ける傍ら、小説を執筆。処女作『すべてがFになる』が、第1回メフィスト賞を受賞。大学や研究所等が舞台となることが多く、作風も相まって理系ミステリと評され、話題を呼んだ。」と書かれています。
ほかの作品は読んだことはありませんが、ここに紹介された作風とは、少し違った小説です。ストーリーは読むに従って、漫画的になってきます。面白いのですが、荒唐無稽とでも例えればよいのでしょうか、主人公自身が不思議体験のように感じますが、決してオカルトでもありません。何となく、「幸せを築く」というテーマが見えてきて、小説全体にほのかな温かみも感じます。
銀河不動産は、銀亀元冶社長と佐賀さんの2人だけの下町の商店街の一番端にある小さな不動産屋です。そこに、私は、就職しました。

『曲がりなりにも、私が通っていた大学は国立大学で、県内で随一だった。』
『大学の就職担当の先生に、この会社はどんなところですか、と尋ねると、うちの大学から行くようなところではない。悪いことは言わない。ここだけはやめておけ、毎年求人が来ているが、誰も行ったことがない。』

そんな銀河不動産に就職した高橋君は、すこし風変りなお客さんたちと出会うことになります。もちろん、お客さんたちは、戸建ての住宅、マンション、営業用倉庫などの物件を求めに、銀河不動産を訪れます。その最初のお客さんに紹介した戸建ての物件、これが、また、風変りな物件でした。

『玄関ホールを入ると、私はびっくりした。どう形容したものか、言葉が見つからない。
玄関ホールの左右に一段低い部屋二つ。とても大きい。左右対称だった。いずれも奥へいくほど天井が高くなる。奥の壁の高い位置半分は、全面がガラス。
異様に大きな空間である。とても、住宅とは思えない。』

読み進んでゆくと、風変りな物件の全容が見えてきます。しかも、どうしたことか、そのお客さんから高橋君は、その物件を借りることとなりました。不動産屋の社員が、仲介した物件を買主から賃借するという奇妙な関係です。
高橋君がお客さんから借りた風変りな戸建て、物語はこの家を中心に動き出します。やがて、この家に、突然、ほんとうに、突然。一人の女性が訪ねてきます。そして、その女性は、これも、どういうわけか、この家に棲みついてしまいます。しかも、高橋君のお客さんが、次々と、この風変わりな家に集まってきて、なぜか、賑やかな共同生活が始まります。そして、その結末は・・・・。

『人はね、きっかけのせいで幸運を掴むものではない。幸運を掴むのは、その人が持って生まれた能力によるものです。言い換えるならば、幸運といったものは、この世にはない。あるとすれば、幸せを築く能力、それを持っていた、幸せを築こうという努力、それをしたというだけのことです。その能力と努力によって、順当に作られていくのが幸運なのですよ』