「官僚との死闘700日」

官僚との死闘

「官僚との死闘700日」
 長谷川 幸洋
 講談社
 2008年8月20日発行
 1700円(神戸市立図書館)

『ある高級官僚が語った言葉がある。
「『政治主導』なんてのは言葉だけだ。政治家なんて結局、おれたちがいなくては、なにもできないのさ。官僚がこの国を動かす仕組みは永久に変わらないんだ』
追い詰められた霞が関官僚の本心を物語っているのではないか。
 だからこそ、霞が関との戦いは続く。これは安倍政権から現在に至る約2年間の戦いと、今後を展望した中間報告である。』

小泉政権からスタートした公務員制度改革に焦点を当てて、これを、承継した安倍、福田の政権中枢で、ジャーナリストの筆者とこの記録の主役である元財務官僚の高橋洋一の公務員改革にかかる官僚とのバトルの「いわば戦記」です。
この本は、すべて実名で書かれています。そのため、安倍、福田政権の下に、何があったのかが、リアルに理解することができます。なぜ、両政権は、投げ出したような結果になってしまったか。もちろん、当時、マスコミに取りざたされた参議院与野党逆転による議会運営の困難さが、大きな要因であったとは思います。
しかし、この本を読むと、それだけではなく、常に霞が関、永田町で繰り広げられる「与野党双方にいた改革派」そして、これに同調する改革派官僚vs「政府与党の中に潜む抵抗勢力」そして、これに加担する守旧派の官僚の激しいバトルに疲れ果てたのも、大きな要因のように思われます。
安倍、福田両首相ともに、小泉改革を承継して、「小さな政府」を目標にして、改革路線を進もうとしました。しかし、その改革は、彼ら二人の力では、突き進む推進力に欠けたのでしょう。
事実かどうかは不明ですが、衝撃的な出来事があったそうです。

『1月29日、永田町に不穏な情報が流れた。的場官房副長官が朝、臨時閣議に出席するため首相(福田)官邸にいた渡辺行政改革大臣に、こうささやいたというのである。
「公務員改革の問題は、昨年の経済財政諮問会議で決着済みです。これ以上やると『倒閣運動』が始まるかもしれませんよ・・・・』

官僚のトップが、事もあろうに大臣を脅しているのです。渡辺は、このあと、大臣を辞して、離党しました。彼は、孤立無援の状態だったのだと思います。
7月21日衆議院が解散され、8月18日公示、8月30日総選挙の日程で、今、政権選択選挙が始まろうとしています。民主党が優勢ということで、民主党が政権与党になる可能性があります。しかし、そのマニュフェストは、子供手当、農家補助、高速道路無料など、国民に心地よい「ばらまき公約」が並んでいます。
この本を読んで、自民党政権が、この2年間、いかに官僚政治から脱却して、国民政治を目指していたかということが解りました。しかし、きわめて複雑化し、システマテックとなった行政組織、行政機能を改革することは、明治維新とは、比べものにならない革命的な決断が必要なのではないでしょうか。
この決断をした時、国のあらゆる機能が停止して、国際的にも、国内的にも、大変なダメージを受けることになります。民主党も、改革を掲げ、自民党も、追いかけるように改革を掲げる。しかし、彼らの言っている改革の手法を、私は、知りたいのです。彼らが、官僚を頼らないで、ソフトランデイングに、なし得る改革の手法です。