「おれたちの街」

俺たちの街

「おれたちの街」
 逢坂 剛
 株式会社集英社
 2008年6月30日発行
 1600円

逢坂剛氏の「御茶の水警察署」シリーズの新刊本です。この本は、「おれたちの街」、「オンブにダッコ」、「ジャネイロの娘」、「拳銃買います」の4編の短編が収められています。このシリーズは、これ以外に、集英社文庫から、「しのびよる月」、「配達される女」、「恩はあだで返せ」が発行されていますが、いずれも、短編が収められています。
御茶ノ水署生活安全課。係長(警部補)の斉木斉、巡査部長の五本木小百合、そして、巡査長の梢田威。今回は、その3人に、見習いが1人加わります。

『仕立てのいい、グレーチェックのスーツを着たその男は、三日ほど前に御茶ノ水署へ来たばかりの、立花信之介だった。肩書きは警務課長付で、課長の安藤甚助預かりになっている。
 立花は、国家公務員試験の1種に合格した、いわゆるキャリアの警察官だ。三か月間、警察大学校で初任幹部教育を受けたあと、御茶ノ水署へ実務研修に来たのだった。見習いとはいえ、すでに斉木と同じ警部補の肩書を持っており、十ヶ月後に警察庁に配属されるときは、早くも警部になる。それから二年もすれば、二十代半ば過ぎで警視に昇進する。高卒の梢田はもちろん、ただの大卒にすぎない斉木も遠く及ばぬ、バリバリのエリートなのだ。』

かるい、かるい、読み物です。274ページの単行本を3日で読んでしまいました。しかも、通勤の電車の中での20分と寝る前の30分ぐらいなので、いかに読みやすいかと云うことです。こういった小説を何と言えばいいのでしょうか?推理小説でもないし、警察もの?しかも、生活安全課の警察官が主人公なので、派手な事件ではなく、どの町でも見かける「地上げ屋」、「のぞき」、「風俗営業」、「盗難品」などが物語の内容になっています。

『四人は、最近駿河台下交差点の近くに新しくできた、セーラーカフェを視察に来ていた。秋葉原で有名になった、メイドカフェがそろそろ落ち着いたところへ、急に現れたのがこのセーラーカフェだった。
 もっとも、たいして目新しいものがあるわけではない。単にウエートレスが、女子学生のセーラー服を着ている、というだけの話だ。スタイルはバラバラだが、実在する女学校の制服を借用したのではなく、どれもオリジナルらしい。スカートは、思いっ切り短い。』

ここから、4人の掛け合い漫才のような会話が始まります。これが結構、面白いのです。読んでいて、ついつい、吹き出してしまいそうになります。警察小説は、様々、ありますが、ちょっと、異色な小説だと思います。それと、彼らが活躍(?)する舞台は、神田神保町界隈なので、私が、学生時代を過ごした街です。そのため、聖橋、駿河台下、小川町、水道橋、道灌通りなど、出てくる地名が懐かしく感じられます。

『「おれたちは、これから質屋回りに出かける予定だ。これも、盗品をチェックする重要な仕事でね、お互い、自分の仕事をしようじゃないか。」』

と、今日も、御茶ノ水署生活安全課の斉木、梢田の凸凹コンビに紅一点の五本木、そして、見習いキャリアの立花が、明大通りを闊歩しています。