「ヴィヨンの妻」

ヴィヨンの妻

ヴィヨンの妻
太宰 治
新潮文庫
昭和25年12月20日発行
平成21年7月25日百十一刷
362円

9月には、読み終えた「ヴィヨンの妻」を紹介する順番がやっときました。図書館で借りた本は、返却日があるので、ついつい、そちらの読了後の紹介を優先してしまったためです。今年は、太宰治(生年1909年)の生誕百周年です。今年中には、紹介しないと、生誕百周年が過ぎてしまいます。
いきなり、余談ですが、著作権は、作者没後50年で消滅します。何が言いたいのかと云うと、この文庫本は、362円。同じぐらいのページ数の新刊文庫本は、400円〜440円の見当です。そうすると、その差額が、著作権料となるのでしょうか?太宰は、1948年に亡くなっているので、当然、50年を過ぎているので、著作権は消滅しています。文庫本を買う時は、作者没後50年を経過した名作が、お得です?
もう一つ余談ですが、太宰治は、本名津島修治ですが、娘の園子の婿が、津島雄二です。先の衆議院選挙で引退しましたが、厚生大臣などを歴任した自民党の長老議員でした。政治家つながりで、山岡荘八の後妻の娘婿が、今をときめく民主党国会対策委員長山岡賢治って知っていましたか?

『あわただしく、玄関をあける音が聞こえて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。』

ヴィヨンの妻」に収録された短編は、この作品を含めて、身持ちの悪い作家(太宰自身のことを誇張しているのか)とその家族生活が描かれています。帰宅するときは、泥酔の状態、帰宅しないときは、どこか得体のしれない女のところ、それでも、流行作家の夫。お金も家には入れてくれない。子供は、痩せて、同年代の子供と比べても小さい。それでも、なぜか、妻は屈託もなく、明るい。
ある日、借金の返済を求めて、ある男と女があばら家を訪ねる。お金はない。苦し紛れに妻は、返済の約束をする。返済を求めたのは、夫の馴染みの居酒屋さんである。妻は、返済もできないまま、その居酒屋さんで女中を志願して、そのお店の看板娘となる。妻は、自分の知らない世界で、なぜか、いきいきとした生活を始める。夫が、そんな妻を、見つめる。

『どこへ行こうというあてもなく、駅のほうに歩いて行って、駅の前の露店で飴を買い、坊やにしゃぶらせて、それから、ふと思いついて吉祥寺までの切符を買って電車に乗り、吊革にぶらさがって何気なく電車の天井にぶらさがっているポスターを見ますと、夫の名が出ていました。それは雑誌の広告で、夫はその雑誌に「フランソワ・ヴィヨン」という題の長い論文を発表している様子でした。私はそのフランソワ・ヴィヨンという題と夫の名前を見つめているうちに、なぜだかわかりませぬけれども、とてもつらい涙がわいて出て、ポスターが霞んで見えなくなりました。』

太宰小説のうち、是非、お勧めする作品です。