「ひとり日和」

ひとり日和

明けましておめでとうございます
本年も「dandy−papaの休日」をよろしくお願いいたします

「ひとり日和」
青山 七恵
河出書房新社
2007年2月28日発行
1200円(神戸市立西図書館)

2007年第136回芥川賞の受賞作品です。青山さんは、「窓の灯」で第42回文藝賞を受賞してから、第2作目で、しかも、24歳の若さでの受賞でした。その後は、目立った著作活動はしていないようです。それでも、芥川賞は、芥川賞ですが・・・・?

『そのおばあちゃんというのは母方の祖母の弟の奥さんで、歳は七十を過ぎているという。わたしの何にあたるかはよくわからなかった。
 母は彼女のことをおばあちゃんと呼び続けたので、わたしが吟子さんという名前を知ったのは、もっとあとになってからだった。』

『わたし』の名前は、『知寿』。高校を卒業してアルバイトを転々としていたが、ある日、私立の高校で国語を教えている母が、中国に行くこととなった。父と母はわたしが五歳のときに離婚し、それ以来ずっと母と二人暮らしだ。母には、一緒に来ないかと誘われたが、

『「来たい?」母は聞いた。
「いや、いい」
「来なさいよ」
「やだよ」
「一人でどうするの」
「東京に行きたい。で、仕事をみつける」』

そんな会話の後、『わたしは、』東京のおばあちゃんの家に寄宿することとなった。この小説は、『わたし』とおばあちゃんとの、おばあちゃんの家での1年間の生活の記録です。小説は、「春」「夏」「秋」「冬」「春の手前」の5つの季節で構成されています。

『雨の日、わたしはこの家にやってきた。
 その部屋には、立派は額縁に入れられた猫の写真が鴨居の上に並んでいた。入って左の壁から始まり、窓のある壁を通り、右側の壁の半分まで写真は続いている。数える気にもならなかった。猫たちは、白黒だったりカラーだったり、そっぽを向いていたり、じっとわたしを見つめていたりする。部屋全体が仏壇みたいに辛気くさく、入り口に立ちつくした。』

吟子さんは、『わたし』に干渉することはなかった。『わたし』も吟子さんのことを、あまり知ることはなかった。そんな二人の生活が、季節の中で平凡に流れて行く。そのうつろいは、大きな川がゆっくりと流れるように、ときには、せせらぎが、ときには、うねりが、ときには、さざなみが、この小説の中に見え隠れします。何とも、平凡な小説ですが、読了後、何とはなく、いい気分が残るのは、何故でしょうか?

『「吟子さん」
「なあに」
「あたし、こんなんでいいと思う?」
「さあ。わからないね」』

『「吟子さん。外に世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐに落ちこぼれちゃうんだろうね」
「世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ」』