「聖女の救済」

聖女の救済

「聖女の救済」
東野 圭吾
文藝春秋
2008年10月25日発行
1619円(神戸市立西図書館)

先週に引き続き、浅田次郎さん小説を紹介をする予定でしたが、今日、図書館に返却予定の「聖女の救済」を読了したので、こちらの紹介を先にします。あしからず。
ご存知、帝都大理工学部物理学科第13教室湯川学助教授。通称「ガリレオ」の登場です。小説を読んでいるとテレビドラマの配役が、ついつい、頭に浮かびます。湯川学は(福山雅治)、刑事草薙俊平は(北村一輝)、女性刑事内海薫は(柴咲コウ)です。事件は、緩やかな坂道に沿って、洒落た構えの邸宅が立ち並んでいる街のある邸宅で発生しました。

『意を決し、宏美はバッグから鍵を取り出した。綾音から預かった、例の鍵だ。
 玄関のドアは施錠されていた。それを外し、ドアを開けた。玄関ホールも明るかった。
 宏美は靴を脱ぎ、廊下を進んだ。かすかにコーヒーの匂いがする。今朝のコーヒーが残っているはずがないから、義孝が再び入れたのだろうか。
 リビングのドアを開けた。その途端、彼女は立ち尽くした。
 義孝が床に倒れていた。その傍らにはコーヒーカップが転がっており、黒い液体がフローリングの床に広がっていた。』

現場に駆け付けた、草薙と内海。聞き込み、現場検証などから邸宅への侵入した不審者は、捜査線上には上がってこない。密室の自殺?それとも殺人?コーヒーからは、亜ヒ酸が検出された。そう、例の和歌山のカレー殺人事件に使用された毒物と同じである。鼠の駆除などに使われる比較的入手可能な毒物だった。
真柴綾音は、義孝の妻。結婚して1年。有名なパッチワーク作家でもある。事件当日は、北海道の実家に帰省していた。若山宏美は、綾音のパッチワーク教室の助手である。真柴夫妻とは、親しい間柄にある。綾音が、帰省するときに、真柴家の鍵を預かっていた。草薙と内海の推理は、真っ向から対立するが、それぞれが、独自の捜査を展開していく。その過程で、内海は、湯川のもとを訪れ、湯川にトリックの解明を依頼する。

『「君は誤解しているようだが、物理は手品じゃない」(ドラマでは、ここで、福山が眼鏡の中央のあたりを人差し指で押し上げる。)
「でも手品のようなトリックを、先生はこれまでに何度も解いてこられたじゃないですか」
「犯罪トリックと手品とは違う。その違いがわかるかい?」薫が首を振るのを見て、湯川は続けた。「当然のことだが、どちらも種がある。だが、それの処理の仕方が違う。手品の場合、演技終了と共に、客が種を見抜くチャンスもなくなる。ところが犯罪トリックの場合、捜査陣は犯行現場を納得いくまで調べることが可能だ。何か仕掛ければ必ず痕跡が残る。それを完璧に消さなければならないところが、犯罪トリックの最も難しい点だといっていい」』

単行本で378ページのミステリー小説。草薙と内海の捜査、とくに綾音と宏美への事情聴取のくだりが多いが、そこに次の展開が潜んでいる。ただし、トリックは、かなり非現実的なものであり、『理論的には考えられても、現実的にはありえない』しかし、完全犯罪は成立したか?東野ワールドへあなたも、どうぞ。