「武士道シックステイーン」

武士道

「武士道シックステイーン」
誉田 哲也(ほんだ・てつや)
文春文庫
2010年2月10日発行
629円

2週間ほど、休日が、野暮用で多忙につきお休みをしました。掲載を中止したわけではありませんので、もし、ご心配の方がおられたら、失礼をいたしました。
この小説は、時代劇ではありません。バリバリの熱血・痛快・青春小説です。主人公は、まったく性格の違う16歳の2人の女の子です。1人は、小学校の時から兄と共に剣道を習い、女の子なのに剣道バカのような磯山香織、もう1人は、子供の時は日舞を習い、中学に入って剣道を始めた甲本早苗。磯山香織は、剣道の全国中学生大会2位の実績。甲本早苗は、剣道の大会経験ほとんどなし。その2人が、横浜市民大会で偶然に対戦することとなりました。

『「赤、桐谷道場、磯山選手。白、東松学園、甲本選手」
 礼をして三歩。開始線に立つ。
 蹲踞する上下の動きにブレがないのには、ちょっと驚かされた。なかなかいい足腰をしている。姿勢もいい。ひょっとしたら、侮れない、かもしれない。
 「始め」
 「ハアーッ」
 声は、異様に高い。まるでリコーダーか、マイクのハウリングみたいな音だ。
 一歩出て、剣先を探る。しかし動かない。応えない。
 踏んでみる。物打を払ってみる。それでも、自分からは動かない。
 間合いを詰めてみる。相手は少し下がったが、まだ竹刀は動かさない。最初の構えから、剣先はほとんど、微動だにしていない。要するに反応がない。』

この試合の後、磯山香織は、甲本早苗を追って、東松学園高校女子部に体育推薦入学をします。香織は、当然、早苗が剣道部に在籍していると思っていましたが、剣道部に甲本の名前がありません。香織は、戸惑いますが、すぐに、事情が分かってきました。甲本は、旧姓。両親が、離婚して、名字が西荻に変わっていたのです。漸く、早苗を探し当てた香織は、何とか、早苗との再試合を試みますが、どうも、何だか変なのです。

『身ひとつに美食をこのまず。
 これも新免武蔵「独行道」の一節である。
 その日もあたしは、本を読みながら昼飯を食っていた。といっても、別に小説なんぞを読んでいるのではない。
 「五輪書」だ。宮本武蔵が己の生涯を通して身につけた兵法のすべてを、地之巻、水之巻、火之巻、風之巻、空之巻も、全五巻に書き表した名著だ。ちなみに、これらの各巻末にあとがきの署名が「新免武蔵」となっているので、あたしは基本的に、「宮本武蔵」ではなくて「新免武蔵」と呼ぶのである。』

香織は、「宮本武蔵」を尊敬する剣道一筋の随分と変わった女の子です。愛読書も「五輪書」とは、変わりすぎでしょう。小説の全編にわたって、剣道の用語が、たくさん使われています。ひとつ紹介します。竹刀には、「つる」が張ってありますが、この「つる」が刀の背にあたるそうです。したがって、「つる」のほうで、胴を打っても一本にはならないそうです。一言で言って「おもしろい」小説です。続編の「武士道センブンテイーン」「武士道エイテイーン」も文庫本になったら読みたくなってきます。