「使命と魂のリミット」

使命と魂のリミット

「使命と魂のリミット」
 東野 圭吾
 新潮社
 2006年12月日発行
 1600円(神戸市立西図書館)

少し、頭が鈍くうずいています。昨夜、飲み過ぎてしまったのか?いつものスナックA奈に、ママの娘の友達がヘルプでくるというので、ちょいと、洒落た振る舞いをしたのが飲み過ぎの原因か?洒落た振る舞いというのは、彼女に、ひまわり1本にカスミソウをあしらって、僅か000円のウェルカムフラワーを用意したことです。これって、テレビドラマの「ブザービート」からのパクリって、別に、山ピーを気取ったわけではありません。
東野圭吾。いま、一番の人気作家ではないですか?探偵ガリレオシリーズ、加賀恭一郎シリーズ、そうそう、ちょうど今、「新参者」が日曜劇場で放映中です。これは加賀恭一郎シリーズですが。加賀刑事役の阿部寛のシャープな演技が、なかなか面白いです。この小説は、医療サスペンスというジャンルでしょう。医療関係のドラマも、何だか、最近の流行でしょうか。「コードブルー」「チームバチスタ」などテレビでも、このジャンルのドラマが多くなっています。昔は、「ベン・ケーシー」なんて、古いですね。
氷室夕紀は、帝都大学医学部を卒業して、同大学の研修プログラムを受けている研修医です。そして、現在、西園陽平教授のもとで心臓血管外科にいます。彼女の父親は、彼女が中学3年生の時に、胸部の大動脈瘤の手術を受けたが、不幸にして亡くなってしまい、彼女が、医者を志したのは、父親の死が動機の一つなのです。父親が亡くなる前に、夕紀は、父親から将来のことを尋ねられますが、まだ、わからない、と彼女は答えます。

『「そうか、まあ、ゆっくり考えればいい、そのうち何か見えてくる」
「そうなのかな」
「ぼんやり生きていちゃだめだぞ。一生懸命勉強して、他人のことを思いやって生きていれば、自ずといろいろなことがわかってくる。人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っているものなんだ。誰もがそういうものを持って生れてきているんだ。俺はそう思っているよ」
「何だかカッコいいね」
「だろ。どうせなら、カッコよく生きていこう」健介はそういって目を細めた。』

小説は、彼女の日常の研修医生活から始まりますが、もう一人、夕紀と同じ職場の看護師真瀬望の恋人直井譲治との日常が並行します。

『三か月前、職場の仲間が譲治に、合コンに行かないかと誘ってきた。いつもなら断るところだったが、女性たちの職業を聞いて気が変わった。帝都大学病院のナースだという。
 譲治はある目的を秘めて、そのコンパに参加した。予想した通り、彼にとってはつまらない場だったが、収穫はあった。心臓血管外科で働いているという看護師が一人いたのだ。それが真瀬望だった。』

帝都大学病院に1通の脅迫状が届きます。病院の医療ミスを糺す内容でした。この脅迫状から事件は動きだします。圧巻は、電気系統を破壊された状況で、西園、夕紀が、胸部大動脈瘤の手術を続けていくシーンです。医者の使命と魂のギリギリのリミットが、読者にヒシヒシと伝わってきます。思わず、読みながら手に汗を搔いてしまうほどの迫力です。
東野圭吾さんは、大阪府立大学電気学科を卒業してデンソーに技術者として入社して、その後、推理小説を書き始めたそうです。ガリレオシリーズが、科学的なミステリーをテーマにしているのは、技術者の出身だからと思っていました。ところが、この小説は、医療系です。随分と、医療の勉強もされたようです。でも、やはり、ミステリーのキーマンは、電気系統でした。