「制服捜査」

制服捜査

「制服捜査」
 佐々木 譲
 新潮文庫
 平成21年2月1日発行
 590円

この作品は、警察小説というジャンルです。警察小説でも、主役が刑事の小説は、たくさんありますが、駐在所勤務の制服警官が主役の小説は、珍しいと思います。漫画でいえば、人気者の「両さん」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」がありますが、この小説は、シリアスな小説です。テレビドラマでは、刑事ものは1年中、番組がないことがありません。それ程、刑事ものは根強い人気があるのでしょう。今、「新参者」と「おみやさん」が放映されていますが、昔は、「太陽にほえろ」が、すごい人気でしたし、そのまた昔は、「七人の刑事」なんてものもありました。
川久保篤巡査部長。北海道警察本部釧路方面、広尾警察署志茂別町駐在所。川久保は、警察人生25年で、初めての駐在所勤務を経験することになりました。駐在所勤務は、原則として、夫婦同居ですが、前職、札幌豊平署刑事課強行犯係からの異動であり、娘の受験と持ち家管理のため、この地に単身赴任してきました。もちろん、単身赴任については、上司の了解は得ています。

『駐在所勤務は、ふつうは家族を伴う。派出所勤務とちがって駐在所の場合は、家族とくに妻の手助けがないと、職務遂行が難しいのだ。電話番がひとりいるだけでもちがう。
 しかし川久保は、先月末異動の辞令を受け取ったとき、単身赴任を決めた。』

単身赴任で、駐在所勤務をすることとなった川久保巡査部長。十勝地方の小さな農村で発生する事件に、駐在所勤務警察官として、いの一番に「臨場」します。駐在所勤務の警察官には、捜査権限はありません。事件が発生すれば、その場に駆け付けて、現場を保存したり、野次馬を整理したり、時には、捜査刑事に協力して、担当地域の住民の情報を提供します。そのためには、「土地鑑」を付けておく必要が大事です。駐在警官の役割は、判っているのですが、前職の経験から、独自に捜査活動をしてしまうのが、川久保巡査長です。

『「川久保さん、あんた駐在警官の一番大事な任務ってなんだと思う?」
質問の真意がわからず、川久保はあたりさわりのないことを答えた。
「地域の治安維持、ってことでしょう?」
「具体的には、どういうことだい」と、竹内の声はいくらか意地悪そうなものになった。
 川久保は言葉を変えて答えた。
「犯罪の被害者を出さない、ということだと思いますが」
「ちがうね」鼻で笑うように竹内は首を振った。「被害者を出さないことじゃない。犯罪者を出さないことだ。それが駐在警察官の最大の任務だ」』

小説は、5編の事件から構成されています。それぞれの事件は、関連性はありませんが、小さな田舎町の事件であり、住民との関係にも気を使いながら、駐在所勤務の川久保巡査長が活躍します。佐々木さんは、2009年下期第142回直木賞の受賞作家です。受賞作「廃墟に乞う」も警察小説ですが、まだ、読んでいません。実は、この小説をチョイスしたのは、佐々木さんの警察小説を読んでみたいというのが動機でした。サスペンスとしては、やや、物足りなさを感じますが、どちらかと言うと、人情的な温かみを感じる作品です。