「人間の建設」

tetu-eng2010-11-28

「人間の建設」
小林秀雄岡潔
新潮文庫
平成22年3月1日発行
380円

久しぶりに哲学をしてしまいました。
小林秀雄さん(1983年逝去)は、批評家というのでしょうか?時代を代表する思想家とでもいうのでしょうか?ずいぶんと以前のことですが、代表作「本居宣長」を買って、ふうふう言いながら読んだ記憶がありますが、内容は、覚えていません。随筆に、「考えるヒント」があり、これは、単行本で読みました。随筆の教科書にもなる素晴らしい作品でしたし、「考えるヒント」からは大学受験の問題が多く出題されたと思います。文庫本にもなっていますので、お薦めします。
岡潔さん(1978年逝去)は、日本で有数の数学者です。随筆も多数あるようですが、残念ながら、数学は、数2Bまでしか勉強した記憶もなく、数学と聞いただけで「くしゃみ」が出そうなので、読んだことがありません。
そのお二人の雑談集が、この本です。雑談は、18編ありますが、気安く読める雑談から、何を言っているのか解らない雑談まで様々ですが、どうも、この方たちとは、「おつむ」の構造が違いすぎるのか、「さっぱり」です。ただ、読んだだけで、記憶に残るほど読みこめないという情けない読者でした。
まず、ご紹介するのは、情けない読者でも、少しは、理解できる酒に関する雑談です。題目は「国を象徴する酒」です。

『小林 岡さんはお酒がお好きですか?
 岡 自分から飲まないのですけれど、お相伴に飲むことはあります。今日はいただきま すよ。
 小林 ぼくは酒飲みでして、若い頃はずいぶん飲んだのですよ。もう、そう飲めません が、晩酌は必ずやります。関西へ来ると、酒がうまいなと思います。
 岡 酒は悪くなりましたか。
 小林 全体からいえば、ひどく悪くなりました。ぼくは学生時代から飲んでいますが、 いまの若い人たちは、日本酒というものを知らないですね。
 岡 そうですか。
 小林 いまの酒を日本酒といっておりますけれども。
 岡 あんなのは日本酒ではありませんか。』

何が、おっしゃりたいか、と言うと、酒の個性がなくなったことから、さらに、日本酒を味あうことと小説を批評することは似ていると。この点で、おふた方は一致。そして、近頃の小説は個性がない。そして、絵も個性がない。ひいては、世界の知力が低下していると一刀両断です。
もう一つ、「「一」という観念」という題目について。これは、少し、高尚な雑談です。

『小林 岡さん、書いていらしたが、数学者における一という観念・・・・
 岡 一を仮定して、一というものは定義しない。一が何であるかという問題は取り扱わ ない。
 小林 つまり一のなかに含まれているわけですな、そのなかでいろいろなことを考えて いくわけでしょう。一という広大な世界があるわけですな。
 岡 あるかないのか、わからない。』

このあと、子供が「一」を会得するのは何時ごろか、という雑談に発展します。答えは、「人間の建設」を読んでください。岡さんは、数学というものを研究するときには、数式では書かないと言われています。自分でわかる符牒の文書で書いて、言葉で着想し、思索するそうです。そして、なかなか数式にたどりつかないと言われています。恋愛小説ばかりではなく、たまには、こういった本も、ストレートコーヒーのようにスパイスが効いています。でも、もう一度読むことは無理かな。