「虞美人草」

tetu-eng2011-02-06

虞美人草
夏目 漱石
新潮文庫
平成22年5月15日第114刷
2010年2月 5日第11刷
540円

昨日は、久しぶりにスナック「A奈」で遅くまで、だべリング。センター街の「TUTAYA」で、BzのDVD(「2006Bzインなんば」)を買って、これも持ち込み、観賞。流石に、Bzは迫力があります。6年前、細君と二人で、Bzのコンサートをワールド記念ホールに見に出かけたのが、懐かしく思い出されました。あの頃は、まだ、元気でした。「A奈」では、焼酎「海」のお湯割りをグビリ、グビリ。この焼酎、美味しい。しかも、大サービスで、日生の牡蠣を焼いてくれて、大阪名物の「旭ぽんず」を垂らして、これも最高。

『春はものの句になり易き京の町を、七条から一条まで横に貫いて、烟る柳の間から、温き水打つ白き布を、高野川の磧に数え尽くして、長々と北にうねる路を、大方は二里余り来たら、山は自から左右に逼って、脚下に走る潺湲の響も、折れる程に曲がる程に、あるは、こなた、あるは、かなたと鳴る。山に入りて春は更けたるを、山を極めたらば春はまだ残る雪に寒かろうと、見上げる峯の裾を縫うて、暗き陰に走る一条の路に、爪上りなる向こうから大原女が来る。牛が来る。今日の春は牛の尿の尽きざる程に、長く且つ静かである。』

こちらも久しぶりの漱石でした。漱石は、いい。小説の書き出しで、宗近一と甲野欽吾が、京都で遊んでいるのですが、その京都の情景の描写です。二度、三度と読んで下さい。京都の街並みが何となく想像できるでしょう。このような表現で書ける小説家は、二度と輩出されないのではないでしょうか?甲野欽吾の腹違いの妹である藤野は、恩賜の銀時計をもらった秀才小野清三と結婚しようと考えます。藤野の母親も、欽吾が相続した財産を、何とか自分のものとしようとします。一方、小野清三には、お世話になった恩師である久保孤堂先生の娘小夜子との約束がありました。
小野清三は、貧しかった昔のしがらみと今の打算に苦しみます。その打算とは、気の病の甲野欽吾の財産も、自分が藤野と結婚して、管理するのがふさわしいと考えていることです。気の病の甲野欽吾の最大の理解者は、宗近一の妹である糸子です。さて、これが、フルキャスト。整理してみると、宗近一とその妹糸子と二人の親爺、甲野欽吾とその妹藤野と二人の母親(なぞの女)、(ただし、欽吾と母親はなさぬ仲、藤野は腹違い)、貧しき学士小野清三、久保孤堂先生とその娘小夜子。この登場人物が、それぞれ、絡み合いながら、やがて、悲劇へと導かれていきます。しかし、この小説には、何故か、暗さとか重苦しさがありません。それは、多分、糸子が、この小説で、重要な役割を担っているのだと思います。糸子に注目して、この小説の世界に入って下さい。漱石が、朝日新聞社に入社して、職業作家となった第1作です。

『力は山を抜き 気は世を覆う
 時利あらずして 騅逝かず
 騅逝かざるを 如何せん
 虞や虞や  汝を如何せん』

虞美人草」とは「ひなげし」のことですが、この小説を読むときには、何時も、何時も、項羽と劉邦の「垓下の戦い」に敗れた項羽が、愛姫の「虞姫」を想って歌ったとされているこの歌を思い出します。「虞や虞や  汝を如何せん」のこの一節に、項羽の虞姫への想いが詰め込まれています。漱石は、藤野を「虞美人草」に見立てています。