「シューカツ!」

tetu-eng2011-05-29

「シューカツ!」
石田 衣良
文春文庫
2011年3月10日 第1刷
660円

先週は、私事都合により、ブログの掲載をお休みしました。私事とは、父方の叔母さん、伯父さんが、つづけざまに亡くなったことです。これで、亡父の兄弟は、みんな天国に集まりました。6年先に逝った亡父も、「遅かったな。」と、兄弟の揃ったことを歓迎しているでしょう。しかし、先月は、同い年の従姉も亡くなったのですが、これには、お前は、「早すぎるぞ。」と、驚いているでしょう。ため息の出るような心持です。私の血族が、寂しくなりました。と言うことですが、この世に生きている私どもは、亡くなった従姉の分まで、長生して、世の中を、しっかり見ておかなければなりません。
今週は、石田衣良さんの「シューカツ」です。今春は、大学卒業者の就職率は91%と、就職氷河期を下回る「超就職氷河期」となりました。愚息は、今春の卒業でしたが、昨年、何とか、滑り込んで、今、研修中です。10人のうち1人の若者、親御さんは、つらい思いをしているでしょう。若者に希望を与えられないのは、私たち大人の責任です。私たち大人が、自分たちの保身のために、若者の就職の機会を奪っているのではないのでしょうか。この小説は、就職活動に懸命に立ち向かっていく、7人の若者の物語です。

『(勝負の春がきた)
 千春は大学三年生である。就職活動、シューカツがいよいよ始まるのだ。これからの一年で一生の仕事を決めなければならい。なんとか希望する企業に潜りこまなければならないのだ。不安とあせりで胸のなかはいっぱいだった。受験勉強とは違って、シューカツに正解はない。どんなにがんばって準備をしても、十分ということはなかった。単純な学力だけでなく、コミュニケーション力とか人間力とか、自分ではどうにも判断のできない要素が無数にからんでくる。』

水越千春ほか六人のマスコミへの就職を目指す大学三年生が集まって、シューカツプロジェクトチームを結成します。エントリーシートの書き方のセミナー、模擬の個別面接やグループ面接、情報交換など。チームの目標は、マスコミへの全員合格。千春は、まずはインターン制度に応募して、在京テレビ局のインターンにチャレンジ。インターン制度とは、大学三年の夏休みに行われるイベントですが、希望する企業への体験入社みたいなものです。まずは、インターンに合格できるかどうかも、分かれ道です。もちろん、インターンで好感触を得られれば、就職への有利な材料となります。

『秋になって、いよいよ就職活動は具体化してきた。シューカツで大学生が最初に行動を起こすことといえば、近年はエントリーシートの作成と相場は決まっていた。人気企業では、どこでも応募者が殺到する。採用担当の目にとまる魅力的なエントリーシートが書けなければ、第一段階で足切りされる恐れもあるのだ。面接や筆記といった本選で戦うまえに、門前払いをくうことになる。』

エントリーシートには、自己PR(例えば、自分の長所、短所、学生時代に力を入れたことなど)、当社に受験する理由などを、おおむね200字以内で簡潔に記載することが通例です。僅か、200字での売り込みがキーポイント。どうも、この時点での企業の本音は、大学、学部での足きりみたいです。だいたい、200字で、人物を評価できるなんて、あり得ません。それでも、学生は、まずは、このハードルを越えなければなりません。
千晴は、10社ぐらいにエントリーシートを提出して、その後、数社から面接通知を貰って、グループ面接、個人面接へと進んでいきます。その間、千晴の心は、壊れそうなほど揺れ動きます。それでも、チームの仲間の支えもあり、千晴は、くじけません。現在の就職活動の状況を、学生の視点から細かく紹介しながら、千晴らの「シューカツ」に挑む学生の心模様を描いています。現代の若者の抱える「シューカツ」という人生のハードルを、私も、昨年の愚息の経験から、同調しながら読むことができました。これから、「シューカツ」を迎える若者、親御さん、必読でしょうか。