「プリンセス・トヨトミ」

tetu-eng2011-07-03

プリンセス・トヨトミ
万城目 学(まきめ・まなぶ)
文春文庫
2011年4月10日第一刷
2011年4月20日第二刷
750円

万城目(まきめ)さんの苗字に興味を持ちましたが、調べてみても、宮崎県地方の名字だそうですが、然したる謂れはないようです。以前、テレビドラマで「鹿男あをによし」の原作者の名前で「何と、読むのだろう?」と思ったので、覚えていました。その時は、「ばんじょうめ」かな?この本を買って、「まきめ」と知りました。京都大学法学部の出身。ロザンの宇治原とは、同級生だそうです。「プリンセス・トヨトミ」は、映画化されて、主演は、綾瀬はるか。「鹿男あをによし」も彼女が主演でした。

『「会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。」
内閣だけではない。国会、裁判所にも属さない。会計検査院は内閣、国会、裁判所、いずれからも独立した機関なのだ。
 大日本帝国憲法時代から天皇に直属する機関として存在し、現在もあらゆる国家権力の影響から超然としてたたずむ機関 ――― それこそが会計検査院である。
 その会計検査院の調査官三名が、東海道新幹線新大阪駅の構内を颯爽と歩いている。』

新大阪駅構内を颯爽と歩いているのは、会計検査院第六局副長松平元、調査官鳥居タダシ、調査官旭・ゲーンズブールの三名です。旭は、歴とした日本人ですが、日本人とフランス人の混血です。この3人が、大阪府庁ほか、大阪市内の国の補助金の交付先への会計実地検査に訪れました。3人は、調査先として、大阪空堀中学校に足を運びます。そこには、この小説の主役である真田大輔と橋場茶子が通っていました。それは、ただの偶然だったのか?

『たとえば、我が国の国家予算は、年間約八十兆円にも及ぶ。
 そのうち、補助金や負担金等に姿を変え、約二十兆円が地方や法人・団体等に流れていく。
 これら膨大な補助金・負担金等のうち、おおよそ15パーセントの三兆円が、教育関連費として使われる。
 この三兆円のうち、おおよそ50パーセントの1.5兆円が、義務教育費の国庫負担金として消えていく。
 同じく三兆円のうち、おおよそ0.0001パーセントの三百万円が、公立学校等整備補助金として大阪市空堀中学校の、オンボロ校舎の改修費として消えていく。
 ゆえに、会計検査院の調査官がやってくる。』

間違えてはいけませんが、この小説は、会計検査院の調査官の調査をテーマとしたものではありませんが、小説のテーマである大事件の発端は、この調査でした。その大事件とは、「プリンセス・トヨトミ」を守るために、大阪中の機能が停止し、大阪中の男が、大阪城に集まり、無言の行動をとるという壮大なホラー小説です。あり得ないお話ですが、そこには、イノセント・ワールドが広がります。

『昨夜、大輔は父から「合図」の話を聞いた。
 もしも“王女”の身に何かあったとき、大阪国が立ち上がるサインとして、幸一は一つの例を挙げた。それが全員のもとへ伝わっていくのだと幸一は言った。
 視線の先に、父が告げたはじめの「合図」が示されていた。
 大阪城が赤く燃えていた。』