「心に灯がつく人生の話」

tetu-eng2011-07-31

「心に灯がつく人生の話」
 文藝春秋8月号
 820円

文藝春秋8月号。まだ、書店にあると思いますので、是非、お買い求めください。税込820円也。お薦めしたい記事は、特集(永久保存版)「心に灯がつく人生の話」。菊池寛(大正10年に、若い文人のために作品の発表舞台として「文藝春秋」を創刊。当時は十銭で、ざらしのような紙でうすっぺらな雑誌だったようです。)が、標題を見たら、「うむ、みっともない」と言いそうな薄っぺらさですが、内容は、とっても充実しています。と言っても、「今こそ聞く名講演10」という副題で、10人の著名人の講演記録です。もう、亡くなった方もいますので、2度とは聞くことのできない内容です。
目次に書いてある「その名講演のメンバー」と「講演の題目」と「添え文」をご紹介します。

城山三郎浜口雄幸 死を賭して守った国民との約束」
 (絶対安静の身で、浜口は国会に出席した。国民との約束を守る、と)
 松本清張「小説家は人に好かれるべからず」
 (トルストイは醜男だった。菊池寛も女にモテなかった。逆境が作品を作ったのです)
 吉村昭「一度は死んだ私」
 (正月に発病して、半年間に体重が六十キロから三十五キロに減った)
 江國滋「私の話はためになりません」
 (真紅のブラジャーに身を包み、ああ、堂々の入場であります!)
 山崎朋子「真っ黒なご飯」
 (元「からゆきさん」の家は畳が腐り、差し出された茶碗には・・・)
 藤本義一「一日一時間、自分だけの時間を」
 (一日一時間で一年365時間、一年で十五日徹夜したことになる)
 笹沢佐保「人妻との心中に失敗した話」
 (死線を越えて失敗すると自己嫌悪の塊になり、お互い顔を見るのも嫌になる)
 逸見政孝「運命を変えた大失恋」
 (大学入試失敗に失恋が輪をかけてやってきた。チクショウ)
 上坂冬子「原爆乙女たちの哀しき歌声」
 (遺体を探すと木切れに黒い脂が染みついているだけなんです)
 司馬遼太郎「日本の電池が切れるとき」
 (四十年くらいで組織は懐中電灯の電池が切れるようにだめになります)』

「からゆきさん」という単語を知っていますか?「ジャパゆきさん」という単語は知っているでしょう。「からゆきさん」とは、漢字で「唐行きさん」と書きます。明治から戦前にかけて、特に、天草、島原地方の貧しい漁村、農村の娘が、東南アジアに売られてゆき、娼婦として働かされた人たちの総称です。「サンダカン八番娼館」は、「からゆきさん」を題材として昭和47年に発刊されたノンフィクションの作品です。その作者が、山崎朋子さんです。
山崎朋子さんの講演では、この作品の裏話が含まれています。底辺女性史というそうですが、現代から、僅か、7〜80年前には、日本に、このような歴史があったのです。日本社会の底辺で生きていた女性。その原因は、「貧困」でした。私は、この作品のことは、当時、知っていましたが、眼を逸らしていました。今回、講演記録を読んで、哀しいという気持ちを通り越した、暗い歴史、いや、恥ずべき歴史、を直視する必要があることを認識しました。現代の日本人は、こういった歴史から眼を背けてはいけないし、二度と侵してはいけない事実であることを心に刻む必要があります。