「ぼんくら(上)」

tetu-eng2011-11-13

「ぼんくら(上)」
宮部 みゆき
講談社文庫
2004年4月15日第1刷発行
2011年9月12日第35刷発行
620円

広辞苑によると、「ぼんくら」とは、「物事の見通しもきかず、特別すぐれた能力も無い平凡な様子(人)」です。どういう人かと言えば、「私」のような人でしょうか?しかし、私は、「ぼんくら」のうえに、意気地がないときているので、仕様がありません。「坊っちゃん」の「うらなり君」のようなものですか?そう言ってしまえば、「うらなり君」には失礼でしょう。「うらなり君」は、意気地がないと言われているが、「ぼんくら」でない。「ぼんくら」で、「意気地のない」私でも、どうにかこの歳まで、オマンマを頂けたのは、ひとえに「私」の周りの人たちのお陰でしょう。

『江戸の町の町人の自治組織には、きちんとした階級がある。頂点に立つのは「町年寄」で、これは東照神君家康公入国以来の制度であり、樽屋・奈良屋・喜多村の三家が代々世襲で務めることに決められている。
 町年寄三家の下には「名主」がある。家康入国当時からの家柄を誇る草創名主や、それに次ぐ歴史を持つ古町名主、平名主と呼ばれた江戸の町が開拓され広がってゆくにつれて登場してきた歴史の浅い名主など、格に上下はあるけれど、町年寄を手伝い市政に携わるというその役割に変わりはない。』

さて、発行刷数から判るように、「大人気の時代劇ミステリー」と帯に紹介しています。ミステリーとは、少し、大げさですが、主役は南町同心ですが、銭形平次のような捕り物帖ではありません。そう言った意味では、新しいジャンルの時代物と言えるでしょう。最初に申し上げましょう。面白いです。読むに従って、吸い込まれていきます。これが、小説の醍醐味です。実は、この小説は、シリーズもので、「ぼんくら(下)」、「日暮らし(上・中・下)」そして、近刊の「おまえさん(上・下)」と続いています。ひょっとすると、「鬼平犯科帳」「剣客商売」のようなシリーズになるかも?

『(博打うち)
井筒平四郎は迷信深い気質ではない。
 その信念は、四十路の半ばを越した今に至っても変わっていない。
(通い番頭)
 井筒平四郎には細君はいるが、子供はいない。所帯を持って二十年を過ぎたが、とうとう恵まれなかった。四十路を半ば過ぎの今となっては、もうとうに諦めの気分にも達している。
(拝む男)
 井筒平四郎は信心をしない男である。信心が嫌いだとか、信心深くないとかいうのではなく、はっきりとすっぱりと信心しない男なのである。
(長い影)
 井筒平四郎の身分は南町奉行所の同心である。三十俵二人扶持の軽輩ながら、市中ではなかなかに幅をきかせることのできる町方役人という立場である。』

 短編ですが、その短編が続きものになっているという凝った構成になっています。主役の井筒平四郎が、どういった人物なのかということは、短編の冒頭で、少しずつ明らかになっていくという構成も凝っています。次は(下)を読了後、小説の内容を紹介しましょう。