「サランヘヨ北の祖国へ」

tetu-eng2011-11-27

「サランヘヨ北の祖国へ」
森村 誠一
株式会社 光文社
2011年4月25日発行
各1700円(神戸市立西図書館)

不思議なものです。森村誠一さんは、ミステリー作家の第一人者でしょうが、私、始めて読みました。もともと、推理小説は、あまり読まなかったので、この年まで、そういう結果になったのでしょう。ちょっと、珍しいのかも?そう言えば、実は、赤川次郎さんも読んだことがないことを白状します。読書好きを自認する割には、こんな体たらくでは、皆さんに、読書雑感を配信するのは失礼千番と思われるかもしれませんが、所詮、読書の趣味は、偏りがちになるものでしょう。と言うことで、気にしないで先に進みます。

『永井順一は、このままでは自分はだめになるとおもった。すでにだめになっているかもしれない。
 妻を奇禍で失ってからまったく無気力に陥っている。自分が生きているのか、死んでいるのかわからないほどである。
 数年前、ある新人文学賞を受賞してどうにかデビューを果たしたが、まだまだ一人前の作家とはいえない。その後、発表した作品の評判がよく、ようやく原稿の依頼が増えてきた矢先に、突然、妻を失ってしまった。
 取材先に向かう途中、ラッシュの新宿駅のホームですりにバックをひったくられた弾みに、ホームから突き落とされ、そこに入線して来た電車にはねられたのである。』

妻の突然の死から立ち直るために、永井は、亡くなった妻と約束していた韓国旅行に旅立ちます。そこで、オプショナルツアーである「ノグンリ事件の現場訪問」というコースに参加しました。このコースに参加したのは、永井を含めて5名。銀座のクラブに勤める最上みゆき。自殺ボランテイアをしていたがある女性の自殺を止められず悩んでいるという見目広信。元刑事で、最後の事件がお宮入りしたという若槻圭造。ある会社のOLで、上司からセクハラを受けて会社を辞めたという城原涼子。二度と会うことがないと思っていた、この5人が、帰国後、ノグンリ事件の悲惨さを共有したことから、同窓会を開くこととなった。そこから、事件が始まります。事件が事件を呼び込むようにして、やがては、永井の妻の事故死は、殺人ではないかという疑問までに発展していきます。

『ノグンリ事件
 ガイドの説明によると、朝鮮戦争勃発直後、1950年7月26日午後から7月29日朝にかけて、忠清北道永道群、ソウルから南160キロ、プサンから北240キロにある小村ノグンリにおいて、米軍が三日間にわたり戦闘機と歩兵による銃撃を加えて、約400人の避難民を無差別に虐殺したという事件であった。
 避難民の中に北朝鮮軍兵士が紛れ込んでいるという疑惑のもとに、女性、子供、老人の別なく三日間かけてのホロコーストであった。』

小説の冒頭では、登場人物の紹介に相当の頁数が割かれており、読者は、登場人物を知ることにより、小説へスムーズに入り込むことができます。これが、森村さんの小説作法かどうかは解りませんが、小説の導入部としては、オーソドックスな作法です。その後、小説の中盤辺りは、少し、だらだらと、小説の筋とは無関係な恋愛などが描かれていますが、これは、この小説の中休みでしょうか?終盤になって、事件は、急速なスピードで進展します。スローからクイック、クイックです。そして、結末は・・・・・。サラリーマンが、電車の暇つぶしのために読む本としては、最適ですね。でも、この小説で、「ノグンリ事件」や「朝鮮総連帰国事業」などの概要を知ることができました。これが、本を読むことの一つの果実でしょう。そうそう、「サランヘヨ」とは、「愛する」という意味だそうです。これを忘れていました。