「すれ違う背中を」

tetu-eng2012-02-05

「すれ違う背中を」
乃南 アサ
新潮社
2010年4月20日発行
1,400円+税(神戸市立西図書館)

シリーズ第2作。第1作は、「いつか陽のあたる場所で」。2年前ぐらいに読みました。小森谷芭子(こもりやはこ)と江口綾香のちょっと悲しい、ちょっと可笑しい、ちょっと切ない物語です。芭子と綾香は、ちょっと、変わった曰く因縁のある心の許せる無二の親友同士。曰く因縁とは、二人とも前科持ち(まえもち)、知り合ったのは、刑務所。出所後、二人とも、人との関わりを憚りながら、ひっそりと、しかも、しっかりと生きていく女二人です。

『あそこ・・・綾香がそう表現した場所こそが芭子が綾香と知り合ったところだ。先に入っていたのは芭子だった。世間知らずの女子大生だった頃に愚かな恋愛をした。そのツケのようなものだ。罪状は昏睡強盗罪。懲役七年の刑だった。結局、芭子は二十代のすべてを溝に捨てたことになる。
一方の綾香は、懲役五年の刑を言い渡されて入ってきた。罪状は殺人。芭子よりも短い刑期は一見、間尺に合わないようだが、こちらは情状が酌量されての温情判決だった。当時の綾香は、家庭内暴力の夫に長年にわたって苦しめられ続けており、心身ともに疲弊しきっていた。』

下町の谷中。二人は、過去をひたすら隠し、人に知れないように、言葉にも細心の注意を払いながら生活しています。でも、時々、綾香の不用意な言葉に、芭子は、ドキドキさせられる。そんな綾香は、パン屋でアルバイトをしながら、つましい生活のなかでも、将来は、独立してパン屋を開業するという夢を持っています。芭子は、どんな夢を持って、これから生きていけばいいのか?アルバイトは、なかなか見つからない。芭子は、そんな自分に焦りを感じることもあります。そんな時、綾香が、商店街の福引で当てた「大阪旅行ペアチケット」。二人は、出所後、始めての旅行に出掛けることとしました。

『「一等賞!『大阪ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなんばグランド花月で吉本のお笑いを楽しむ二日間の旅』、ペアでホテル一泊、大当たり!」
「そのユニバーサルなんとかって、どういうとこ?」
「ちょっと、芭子ちゃん。USJ知らないなんて、いないよ、そんな人」
「・・・そう?」
「つまり・・・あの頃出来たんだ」
「そう、かな。多分」
「・・・いいの?でも、綾さん、お店は?」
「抽選に当たったって話したら、特別に休ませてくれるって。」
「えっ・・・じゃあ、本当にいけるの?大阪に?」
「ほんま、ほんま!ほんまやよ!」
妙な関西弁を聞きながら、芭子は思わず「やった!」と声を上げた。旅行なんて何年ぶりだろう。少なくとも刑務所への長旅以来、初めてのことだった。』

さて、大阪では、どんな事件が二人を待ち受けているのか?この本は、四編に分かれています。紹介した大阪旅行の「梅雨の晴れ間に」、芭子が、ペットショップのアルバイトを始めた「毛玉を買って」、芭子と綾香が、ちょっといい男と出逢う「かぜのひと」そして、二人が、ちょっと気になる居酒屋のアルバイトの女性と関わりを持つ「コスモスのゆくえ」。乃南アサさんの世界なのでしょうか?ゆったりとやさしい時間が流れる小説でした。