「舟を編む」

tetu-eng2012-06-09

今週の1枚は、「長府宮崎町」我が母校である高校の裏手は、櫛崎城址ですが、町名は、宮崎町です。この入り組んだ古い住宅を抜けると、そこからは、関門海峡を見渡す浜辺になります。

舟を編む
三浦しをん
光文社
2011年9月30日第1刷発行
2012年4月20日第12刷発行
1500円(税別)

今年度の「本屋大賞」の受賞作品です。細君から、面白そうなので買ってきて欲しいという依頼があったので、久しぶりに単行本を購入しました。この本、ハードカバーでもないのに1500円は、高いですね。これでは、本離れが進むのは、やむを得ないじゃないですか?それでも、細君が読んで、僕が読んだので、一人あたり単価からすると750円なので、僕1人が、1冊の文庫本を読むのと等価値ですね。

『「なぜ、新しい辞書の名を『大渡海』にしようとしているか、わかるか」
「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」
「海を渡るにふさわしい舟を編む」』

株式会社玄武書房辞書編集部馬絞光也。彼が、主人公です。小説は、玄武書房が新しく発行する辞書「大渡海」の編纂の物語です。辞書を編纂する過程や苦労など、知らない世界を垣間見ることができます。「大渡海」は、十五年の歳月を経て、漸く、発行に漕ぎつけることができますが、その歳月の間に、時代の流れと共に、「言葉」は変わっていきます。もちろん、発行会社の経営状況も左右します。それでも、辞書は、編纂しなければなりません。何故、そこまでの苦労をして辞書が必要なのでしょうか?そんなことを考えながら、是非、読んでみてください。僕たちの生活の中での辞書の役割を考えながら。

『「まじめさん。海外では、自国語の辞書を、ときの権力者が主導して編纂することが多いです。つまり、編纂に公のお金が投入される」
「なぜ、公金を使って辞書を編むのだと思いますか?」
「言語は民族のアイデンテイテイのひとつであり、国をまとめるためには、ある程度、言語の統一と掌握が必要だからでしょう。」
「そのとおりです。翻って日本では、公的機関が主導して編んだ国語辞書は、皆無です。」
「日本における近代的辞書の嚆矢(こうし)となった、大槻文彦の「言海」。これすらも、ついに政府から公金は支給されず、大槻が生涯をかけて私的に編纂し、私費で刊行されました。」』

広辞苑によれば、「言海」・・・「国語辞典。一巻。大槻文彦著。文部省の命を受け明治八年起稿。同十九年成る。標準的辞書として永く権威を維持した。」
僕の机の横の本箱には、「広辞苑 第二版」(新村出編、岩波書店)、「新版 新法律学辞典」(我妻栄編集代表、有斐閣)、「新英和中辞典」(研究社)「新明解 国語辞典」(金田一京助ほか、三省堂)、そして、何と言っても、「電子辞書 EX−WORD」(CASIO)。これだけあれば、大方の言葉の海を渡ることはできそうです。