「夜行観覧車」

tetu-eng2012-07-01

梅雨本番。グリーンベルトの植え込みには、ブルーやピンクの紫陽花が、この季節の主役さながら咲き誇っています。今週の1枚は、「紫陽花」です。

夜行観覧車
 湊 かなえ
 株式会社双葉社
2010年6月6日第1刷発行
2010年6月17日第2刷発行
1500円(税別)(神戸市立西図書館)

『第一章 遠藤家
 午後七時四十分。
 どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
 目の前には少女が一人。彩花と名付けたのは遠藤真弓だった。
 甲高い声を張り上げながら、勉強机の上にあるものを手当たり次第、わしづかみにしては、床に叩き付けている。いや、携帯電話、プリクラ帳、お気に入りのものは避けている。教科書、辞書、ノート・・・・。ペンケースは先月買ったばかりなのにもう飽きてしまったのか。』

 高級住宅地に住む遠藤家。啓一、真弓、彩花(中学3年生)。彩花が、癇癪を起こすことが多くなったのは、中学受験に失敗してからです。今日も、その癇癪。事件は、ちょうど彩花の癇癪のその時、起こりました。向かいの高橋家。父親の弘幸(大学病院の医者)が、救急車で運ばれたあとで、亡くなったのです。頭を殴打されていたということです。容疑者は、妻の淳子。しかし、次男の慎司が行方不明とのこと。遠藤家のような家庭内の諍い(いさかい)など、まったく、耳にしたことがない高橋家でいったい何が起こったのか?事件は7月4日午前零時ごろでした。

『仲のよさそうなご夫婦でしたよ。ご主人は立派な方で、奥さんも親切な方で、子どもたちも礼儀正しく明るくて、事件が起こったなんて、まったく信じられません。
 むしろ、わが家で起こったと言われた方が、まだ信じられるくらいです。
 殺人事件は、わが家で起こっていたかもしれない。
 そうだ。きっと近所の人たちは、あの声を聞きながら、わが家で何か起こったと思っていたに違いない。高橋家と聞き、驚いているはずだ。
 いったい、あの幸せを絵に描いたような家で何が起こったのだろう。』

 小説は、7月3日の午後7時40分から7月6日の午前4時までの間、事件の起こった高橋家の様子と向かいの遠藤家の様子、そして、高橋家のお隣の小島さと子の手記で構成されています。あっ、肝心の殺人事件のあった高橋家の家族構成ですが、弘幸、淳子、長男弘樹(前妻の子、大学医学部在学中)、長女比奈子(私立S女子学院高等部在学中)、次男慎司(名門私立中学校3年生、遠藤彩花の同級生。彩花は、慎司の通う中学受験に失敗)。高橋家の残された3人の子供たちは、事件の真相を明らかにしようとします。そして、遠藤家の家庭内事情と相照らしながら、「家族とは・・・」を考えさせる「家族小説」です。
 湊かなえさんのデビュー作「告白」は、09年本屋大賞を受賞し、松たか子が主演して、映画化もされました。実は、「告白」も図書館で借りて読みかけましたが、読み切っていません。何故だか、覚えていませんが、ちょっと、ストーリーと文章が重かったように記憶しています。「夜行観覧車」も同じようなイメージを感じながら読み始めましたが、読み進むに従い、この小説が、サスペンスではなく、「家族小説」であることに気付きました。ひょっとすると、「告白」も、私は、思い違いをしていたのかもしれません。