「書店ガール」

tetu-eng2012-09-16

「書店ガール」
碧野 圭
PHP文芸文庫
2012年5月4日第1版第3刷
686円(税別)

単行本のタイトルは、「ブックストア・ウォーズ」。タイトルは、単行本の方が、よかったのじゃないでしょうか?「ブックストア」で働く女性のお仕事エンタテイメントのようですが、実は、紙の本から電子書籍への風潮著しい昨今のブック事情へ一石を投じています。今日の日経新聞講談社文庫シリーズをネット書籍にする旨の記事が出ていました。ネット書店の電子書籍よりも、リアル書店の紙の本をこよなく愛する僕としては、筆者同様、昨今の風潮は、やや苦々しい気持ちです。だいいち、パソコンやスマートフォンなどで画面をめくりながら本もどきを読んで、面白いですか?僕は、ちっとも面白くはありません。

『ここ、ペガサス書房は新宿からJRで約二十分、雑誌のアンケートで「住みたい街ナンバーワン」にもよく選ばれる吉祥寺にある。若者が多く集まるにぎやかな繁華街と、昔からのお金持ちが多く住む高級住宅地というふたつの顔を持つこの街で、ここは一番の老舗書店である。駅前のロータリー沿いに古い雑居ビルがあり、その三、四、五階をこの書店が占めている。三百坪という床面積は、かつては都下随一と言われたものである。都下を中心に二十店舗ほど展開しているペガサス書房のチェーン店の、ここが一号店であり、理子は入社した当初からこの店でずっと働いていた。だから、この店の棚については知らないことはない、と自負している。』

 西岡理子は、四十歳独身。ペガサス書房吉祥寺店の副店長。でも、ある事情も絡んで店長に昇格。北村亜紀、二十七歳。この店に書店員として入社。理子とは、犬猿の仲。仕事では、再々、衝突します。

『「なぜ、駄目なんですか」
 亜紀は書類を片手に理子に食ってかかる。
「駄目なら駄目で、ちゃんと理由を言ってください。」
「何度言えばわかるのかしら。その企画はうちの店に向いていないってことよ。うちの客層がどんなものか、知らないわけじゃないでしょ。うちが老舗だからあえて足を運んでくださるお客様というのは、高年齢、高所得、どちらかといえば保守的な方々なのよ」
「だからこそ、別の客層を開拓すべきではないのですか。もっと若い層の集客を図るためにこういう企画は必要だと思います。」』

 書店には、様々な個性があります。僕は、三宮センター街ジュンク堂」、西神南セリオ「アミーゴ書店」、西神中央プレンテイ「喜久屋書店」、西神中央そごう「紀伊国屋書店」の常連さんです。最近は、西神南セリオ「アミーゴ書店」がお気に入りですね。棚の構成、平積みの方法、POPの解り易さなどなど、もちろん、書店員さんのイメージも大切。また、自分の好みの本の扱いなどは重要な要素です。さらに、さらに、特設コーナーは月ごとに変化がないと、面白くないですね。ある書店では、「東野圭吾コーナー」を1年以上放置していますが、いくら人気作家でも、それだけでは、飽きられます。

『「来年3月までに家賃分の収益増を図り、店舗継続のために努力することをここにお約束いたします」
 そうひと息に言い切って席に座った。座が静まり返っている。みんなが自分に注目している、と理子は感じている。
「ほほほ。評判どおり、西岡くんは威勢がいいな」
「ええ。店長となった以上、店を存続させるために努力するのは当然のこと」
「わかった。つまり、店の売り上げが伸びたら、店を続けさせてくれ、ということなんだな。私の口からその確約が欲しい、ということか」』

 いよいよ、「ブックストア・ウォーズ」そして、「書店ガール」の佳境に入っていきます。ここから、理子と亜紀は、急接近。筋書きは、よくあるパターンですが、このオーソドックスなパターンが安心して読めるのが、筆者の腕かも。さて、結末は。