「蒼林堂古書店へようこそ」

tetu-eng2013-01-13

「蒼林堂古書店へようこそ」
乾 くるみ
徳間文庫
2012年7月20日9刷
629円(税別)

『蒼林堂古書店は、扇町商店街から西に折れた脇道の左手に、ひっそりと店を構えている。
 開店時刻は午前十時で、営業の終了は午後六時。定休日は毎週月曜日である。』

 乾くるみさんは、男性の推理小説の作家です。名前から女性かな?と思いましたが、調べてみると男性でした。最近、性別を明らかにしない、さらには、男性が女性のような名前、または、その反対の名前をペンネームにしている方を見受けます。「阪急電車」の有川浩(ヒロ)さんは、ヒロシではなくヒロと読みますが、女性のライトノベルの作家です。これは、読者に先入観を持たせないための、一つの技法ですかね。

『マスターはまだ話を続けていた。
「性別を判断するにしても、たとえば男性の気持ちがすごくよく描けているからこの作者は男性に違いないとか、そういう考え方はーーーもし本当にその本の作者が男性だったとしても、そういう考え方は他の女性作家に対して失礼ですよね。女性作家にはこういうことは描けないはずだと言ってるわけですから。プロである以上、どんなことだって自由に描けるのが、作家としては理想的ですよね。」
「いわゆるジェンダー論ですね」としのぶが応じる。
「まあ。だから要するに、女性は女性らしくとか、男性は男性らしく、みたいなことは、軽々しく言わないほうがいいということです。」』

ジェンダー論は、これぐらいにして、さて、この小説の紹介です。古書店のオーナーと常連のお客さんが、日常の謎解きをしながら、様々なジャンルの推理小説を紹介するという一風変わった小説です。結局は、推理小説の紹介本になってしまっているのかな?小説は、14編の短編、プラス「林雅賀(マサヨシ)のミステリー案内」のコーナーが各編の終わりに14編あり、そのコーナーで前述の推理小説のまとめ的な紹介がされています。うむ、この本一冊あれば、あなたも推理小説通になれるかも?

古書店のオーナー林雅賀(マサヨシ)は、元文部官僚でしたが、若くして退官、推理小説を専門に扱う古書店を開きました。この古書店の常連さんは、オーナーの同級生だった大村龍雄、毎週日曜日には、この古書店を訪れます。同じく、訪れるのが、高校生の柴田五葉(ゴヨウ)くん。そして、月に1回のお客さんの小学校の先生をしている茅原しのぶ。いずれも、推理小説マニアです。

蒼林堂古書店は、「鰻の寝床」型の店舗で、背中合わせになった中央の本棚の列で、左右に大きく二分されています。幅一メートルに満たない狭いトンネルのような通路が左右に二本、並行しているような構造です。全長六メートルほどのその通路を抜けた先には、四畳半ほどの開けた空間があり、そこにカウンター席が設けられており、喫茶スペースになっています。そして、百円以上の売買をしたお客さんには一杯の珈琲がふるまわれるのです。この喫茶コーナーでオーナーと常連客が、日常のなぞ解きと小説の紹介に話を咲かせます。

 ジェンダー論の続き、「男もすなる日記というものを女もしてみんとするなり」有名な「土佐日記」の冒頭ですが、これは、紀貫之が女性の立場で日記を書いたものです。その後、「更級日記」「蜻蛉日記」「和泉式部日記」と女性による日記文学の先駆けとなりました。平安の昔から、この技法は使われていたのです。