「まほろ駅前番外地」

tetu-eng2013-04-14

まほろ駅前番外地」
 三浦しをん
 文春文庫
 2012年10月10日第1刷
 505円(税抜)

 先週、月曜日、うむ、昨年11月以来ですが、東京へ行ってきました。前日は、爆弾低気圧の影響で、大荒れの日本列島でしたが、当日は、台風一過の晴天。そこで、神戸を出るときには、富士山を楽しみにしていました。私の期待が叶って、新富士駅の近くから、見事な富士山の雄姿に圧倒されました。これまでに、幾度も、東海道を往復していますが、これ程の富士山は初めてでした。やはり、富士は日本一の山。「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」(関係ないか?)とにかく、感動しました。富士山は、日本人の宝です。

まほろ市は、東京都南西部最大の町。神奈川県との境に位置する。まほろ駅前で便利屋を営む多田のもとに、高校時代の同級生・行天が転がりこんできた。多田便利軒を訪れるのは、どこかきな臭いワケありの依頼人たちーーー』

 「まほろ駅前多田便利軒」の続編です。まほろ市という町は、実在するわけではありませんが、どうも、町田市あたりがモデルなのでしょうか?小説は、7話の短編連作です。前作からのお得意さんの依頼人もいますが、新規の依頼人も出てきます。お得意さんについては、前作を読んでいないと、ちょっと、解りにくいかもしれませんので、是非、前作を読んでからにして下さい。面白いのは、前作のお得意さん「曾根田のばあちゃん」です。依頼人は、ばあちゃんの息子ですが、依頼内容は、入院している「ばあちゃんのお見舞い」。こんなこと依頼する人いますか?今回は、曾根田のばあちゃんは、多田と行天を相手に、ウソかホントか判りませんが、昔、むかしの恋物語を長々と話し始めました。

『曾根田のばあちゃんはやっと病室に戻ることに同意し、多田と行天は一日の仕事を終えて軽トラックに乗った。
 道路はすいている。多田はハンドルから片手を離し、「やれやれ」とラッキーストライクに火をつけた。
「見舞いの代理を引き受けるの、もうやめようよ」
 行天は疲れたのか、シートベルトの意味がないほど、ずり落ちそうな恰好で助手席に座っている。「盆休みなのに、予想外の超過勤務だ」
「盆休みだからこそ、母親の見舞いにいかないと世間体が悪い、と考えるひとがいるんだ」
「だったら自分で行きゃいいのに」
 行天の意見はもっともだが、曾根田のばあちゃんの息子一家は、ただいま沖縄で夏を満喫中だ。』

 もう一話、これも前作からのお得意さん。岡老人。岡老人の依頼は、庭掃除。でも、庭掃除は名目で、横中バスの定時走行性の調査です。岡老人は、間引き運転をしていると疑っているのです。でも、今回の主役は、岡老人の夫人。

『「今度こそ、横中の間引き運転の尻尾をつかむ」
 夫は岡夫人に背を向けたまま宣言した。「明日、便利屋を呼ぶぞ」
「そんなあなた、またですか」
 岡夫人は意義を差し挟んだ。
 まほろ駅前にある多田便利軒を、夫は数年来、贔屓にしている。たしかに仕事は丁寧だし、庭の手入れや納屋の整理といった、細かいが体力の必要な作業を黙々とこなしてくれるので、老夫婦だけで暮らす岡家にとっては重宝だ
 しかし夫は多田便利軒に、つい二週間前まえにも依頼したところだった。依頼内容はいつも同じ。「庭仕事をするかたわら、横中バスの運行状況を監視せよ」
 バスの時刻表と首っ引きで、岡家のまえにある停留所を見張る便利屋のことが、岡夫人は気の毒でならない。』

 どうも、多田便利軒への依頼は、「きな臭いワケあり」というよりは、「ちょっと、風変り」な依頼。でも、その依頼は、「多田と行天だから」ということのようです。