「和解せず」

tetu-eng2013-04-21

「和解せず」
 藤田宜永 
 光文社
 2012年4月20日第1刷発行
 2000円(税抜)(神戸市立西図書館)

 神戸市立図書館ネットワーク(K−libネット)を知っていますか?これは、便利ですね。申し込みを行えば、神戸市立図書館のホームページのマイページから、アクセスして、サービスを受けることができます。サービスの内容は、自宅のパソコンから、本の検索、本の予約、予約状況の確認、メールでの予約連絡、貸出状況の確認、返却期限の延長、以上の6つです。私は、単行本は、図書館にお願いして、文庫本は、購入していますので、大体、月に1〜2冊程度のペースで貸し出しを受けています。何故かって、やはり、単行本は、高いですよね。しかも、嵩張るので置き場に困る。本って、何となく、愛着があり、捨てられないものです。

 藤田さんは、恋愛小説の作家だと思っていましたが、そもそも推理小説作家だったのですね。「愛の領分」で直木賞を受賞しているので、勘違いしていました。「和解せず」は、恋愛小説と推理小説の融合小説でしょうか?両方を得意とする藤田さんの真骨頂かもしれません。ただし、藤田さんの本は、ストーリーの進捗具合が遅くて、しかも、寄り道が多いいので、ときどき、だらけてしまう節があります。この本も、五百ページの長編小説ですが、そういった傾向は感じました。

『「伊木章吾様でいらっしゃいますね」
「ええ」
男が章吾に名刺を渡した。西岡努は伊木修司の公設第一秘書だった。
「お話がございますので、申し訳ございませんが、こちらに」
 章吾は煙草に火をつけた。西岡は素早く膝を進めて隅に置かれていた灰皿を取った。
 通夜に来た伊木家の長男に門前払いを食らわすという嫌な役目だが、西岡には動じている様子はまるで見られなかった。章吾の気持ちを斟酌しているような目つきの底に、この程度の悪役を演じるのは、軽易な仕事だという自信が窺い知れた。』

 伊木章吾は、クラッシックを専門とする音楽プロモーター。父親は、大臣まで務めた高名な政治家でしたが、父親との折り合いが悪く、伊木家を勘当されていました。ある殺人事件から、政治がらみの不正献金の疑惑が見え隠れします。そこに、弟の修司の影が・・・。この小説の推理小説の部分です。

『ずぶ濡れのまま、そこに立っていたのは良枝の娘、沢島美香子だった。
「君か」
 章吾は立ち上がり、応接室に使っている小部屋に向かった。
「タオル貸していただけません?」
 美香子の神経は髪の毛を拭いて整えることに集中している。他のことは一切、意識にない。近くで爆弾が破裂しても、背筋を伸ばし、胸を突き出すような姿勢が崩れることはないだろう。
 美香子の体には昔よりも贅肉がついていた。
 オペラ歌手は、躰全体が共鳴板の役割を果たすから、痩せているよりもふくよかな方がいいと聞いたことがある。』

 章吾と美香子は、20年前に、男女の関係にあったが、ひょんなことから異母兄妹ではとの疑惑を持つようになった。そのときから、美香子は、渡欧して、オペラ活動に没頭したが、20年の歳月を経て、異母兄妹の真相を知りたくなり、その調査を始めると・・・・。章吾にとっても、美香子にも、思いもよらない事実が明らかになる。この小説の恋愛小説の部分です。

 そして、推理小説の部分と恋愛小説の部分が、絡まった糸のように複雑な様相となり、その糸が少しづつ解れていきます。小説の三分の二までは、糸が、どんどんと、こんがらがっていくため読み進むのに時間がかかりますが、それを過ぎると、解かれていく糸の一本一本の色が鮮やかになっていくと、一気呵成に、物語は終盤となり、そこで、また、・・・・。