「インストール」

tetu-eng2013-06-22

「インストール」
 綿谷りさ
 河出書房新社
 2001年11月10日初版印刷
 1000円(税別)

 もう、10年以上も昔のことです。10年一昔といいますが、昔というよりは、時が経ってしまったのですね。の方がいいのかもしれません。「綿谷りさ」さんが、衝撃のデビューをしたのは、17歳の時です。最年少で文藝賞を受賞しました。当時は、センセーショナルに報道されましたが、当時、高校生の書いた小説が、どれ程のものなのか、という思いもあり、結局、読みませんでした。まさに、10年の時を経て、当時の高校生作家が、どういった小説を書いて世間の評判となったのか興味があり、「インストール」を読みました。

 あらすじは、勉強につかれた女子高校生(朝子)がフェードアウトして、登校拒否しますが、親には秘密にしていました。彼女なぜか、自室の家具、調度品などをすべて粗大ごみとして、処分します。そのなかに、おじいちゃんに買ってもらった「壊れた(と思っている)古いコンピューター」がありました。このコンピューターを、同じマンションに住む小学生(かずよし)が持ち帰り、これも、なぜか、押し入れの中で復旧させます。ここまでが、小説の前座です。

 『コンピューターに近づいてみると背部からケーブルが伸びているのが見え、その管は目立たないように壁の角に沿ってテープ貼りされてコンセントまで続いていた。私は唖然として「なんでコンピューターこんな所に置くの?」と聞いた。機械に触れてみると、以前私の部屋にこれがあった時のような埃は舞わず、きちんと磨かれているのが分かった。
 私は早速押し入れの上段によじ登りそこに座って、機械のキーボードについている起動のための三角ボタンを押した。すると機械はジャーン!』

 『「インストールし直したせいで起動時の音量も初期の大きさに戻ったんだと思います。」
「インストールって何?」
「デイスクなんかを使ってコンピューターに新しい機能を取り入れることです。でも、僕は、インストールをしたんじゃなくて、インストールをしなおした、つまりリセットしただけです。」』

『「あの、僕気になってたんですけど、あなたどうしてあの日あんなに一気に沢山のゴミを捨ててたんですか?」
 コンピューターの華麗なる変身を見てなんだか意気消沈した私は、その問いに押入れの壁にもたれながら答えた。
「心機一転のためよ、部屋にある物気晴らしのために全部捨てて学校やめて部屋空っぽにして、それだけの事を発作的に済ませて、それで何が残るのかなあと思ってたけど、何も残らなかった。私を追い越してコンピューターの方が先に生まれ変わってるんだもん、うらやましいぞコノヤロウ。」』

 さて、ここから、朝子とかずよしの冒険?が始まります。その冒険?とは、『コケテイシュチャット館』という風俗嬢とのチャットを愉しむサイトでのアルバイトです。朝子とかずよしは、風俗嬢になりすまして、インターネット上のシステムを使ってお客と文字でエッチな会話をするという仕事の内容なのです。このバイト、お客は、接続料をサイトに払い、サイトからバイト料をもらうというシステム。さて、この「なりすまし」が、この小説のメインイベントです。

 17歳の女子高生が、「風俗チャット」を題材にして小説を書くとは、10年前、いや、今どきの高校生ってどうなっちゃてるの?小説は、平易な文書で、技巧的な感じもなく、読みやすいという印象です。そういう意味では、プロの作家ではないということなのでしょうが、才能を感じさせるものはあります。タイトルは、「インストール」というより、「リセット」の方が、小説の主題にマッチしたかも。意外と、面白かったので、次は、「蹴りたい背中」(芥川賞受賞)にチャレンジですね。