「爪と目」

tetu-eng2013-08-25

「爪と目」
 藤野可織
 文藝春秋9月号
 平成25年9月1日発行
 890円(税込)

 文藝春秋にかぎらず、週刊誌や月刊誌って、なぜ、発行日より早く発売されるのでしょうか?昔(子供のころ)から疑問でした。文藝春秋9月号は、8月9日に発売ですが、9月1日発行って、おかしくないですか???9月号だから9月1日発行、なぜ?

 というミステリーはこっちに置いといて、先週の予告どおり、今週の読書雑感は、ホラー小説「爪と目」(第149回(平成25年度上半期)芥川賞)です。

 わたしの名前は、「陽奈(ひな)」。あなたの名前は「麻衣」。わたしは、三歳の女の子。あなたは、わたしの父の不倫の相手。わたしの母が、ベランダで亡くなってから、わたしは、父とあなたと3人で生活している。父とあなたは、結婚していない。半年間、3人での生活をしてから、先のことを考えることにしたようだ。

 わたしの母が亡くなったあと、

『わたしは爪を噛むようになった。父娘ふたりして黙りこんでいるときには、しょっちゅう、ぴち、ぴち、と爪を噛みきる音がした。わたしの指先は、唾液のせいで四六時中冷たかった。
 「やめなさい」と言われるとわたしは指先を口から離したが、またしばらくすると、ぴち、ぴち、と爪に歯を当てた。ときどき、噛みすぎて血を流した。出血すると、指はますます冷たかった。
 医者は、怒鳴ったり叩いたりして無理にやめさせようとするのは逆効果だと説明があった。
 「まずは心の不安を取り除くことです」と医者は言った。』

 父は、あなたと同居することとした。そして、あなたは、同意した。あなたは、強度の近眼でした。

コンタクトレンズを載せた眼球が、乾いてしかたがなかった。ひっきりなしに目薬を差していると、ときどき視線を感じた。
 「目薬」とあなたは目薬を振ってみせた。わたしはうなずいた。
 あなたは涙をこぼした。わたしはあらためてあなたを見た。お菓子を食べる手が止まっていた。あなたは手際よくコンタクトレンズを外し、摘んで照明にかざした。「これ、コンタクトレンズ」と言ってから、あなたはごみを舐めとって目にはめた。わたしはまだ見ていた。
 「これがないと、私は目が悪くてものがよくみえないの」とあなたは説明した。」』

 あるとき、あなたは、「hina*mama」というブログを見つけた。それは、わたしの母のブログでした。それから、あなたは、家の調度品、食器、食品など、「hina*mama」がこだわって身の周りにおいたものを手に入れようとした。それから、それから・・・・。

 この小説は、3歳の女の子が「わたし」という一人称で、「わたし」から見た父、母、「あなた」について、綴っています。ときどき、「わたし」と「あなた」が、他者を示す言葉に代わったりするので、混乱することもあります。この「わたし」は、わたしが大人になった時の「3歳のわたし」の視点で語っているのです。ええい、純文学って、面倒くさいですね。

 読了後、この小説の主題は何だったのでしょうか?と、自問してみると、「あなた」の「わたし」に対する新しい母としての愛と戸惑いではないでしょうか?藤野さんは、ホラー小説家です。この小説も、「噛む爪」と「コンタクトレンズの目」が強調されて、最後のくだりは、まさに、ホラー小説の結末となっていますが、そう考えるのは、ちょっと、変でしょうか?それとも、単に、猟奇的な3歳の少女と大人の女の確執でしょうか?まあ、僕的には、芥川賞受賞作品って、技巧的な作品が多くて面白くないですよね。今は、本屋大賞でしょう。