「もう、きみには頼まない<石坂泰三の世界>」

tetu-eng2013-11-09

「もう、きみには頼まない<石坂泰三の世界>」
 城山三郎
 毎日新聞社
 1995年1月25日第1刷発行
 1456円(税別)

 有名ホテルのメニュー偽装、有名デパートの食品偽装など、企業不祥事の連続。しかも、口をそろえて、各部門の間の連携の不整合。正直に、言えばいいのに。そんなにガバナンスが効いていないということは、企業として、あらゆる分野で信用できないということです。偽装は、儲けるためにやりました。その方が、企業として利潤追求姿勢が明確になって、スッキリするのでは。

 企業の社会的責任が、言われていますが、社員に給料払うためにちょっと誇大しました。商人は、少なからず、それでなくっちゃね。って、暴論ですか?これで、また、行政の規制が増えて、そのために役人が増える。いいことないんじゃないですか?マスコミも、すぐ、行政の責任を取沙汰するが、それがよくない。この種の話は、自由競争の世界で、消費者がノーと判断すれれば自然淘汰されます。まあ、世の中、せちがらくなって、人の上げ足取りが多くて嫌だね。

 城山三郎さんの企業人の評伝本が数冊あります。「粗にして野だが卑ではない 石田禮助の生涯」「ビッグボーイの生涯 五島昇その人」「わしの眼は十年先が見える 大原孫三郎の生涯」「運を天に任すなんて 素描・中山素平」など、中山素平については、現在、文藝春秋に「勁草の人 小説中山素平」(高杉良)が連載されていますが、単行本になるのが楽しみです。こういう企業人の評伝を読むことは、実は、企業マインドの醸成のためになります。企業の研修で、指定図書として社員に読ませることもあるそうです。もう、僕には、必要ないかもしれませんが・・・。

 石坂泰三。昭和五十年三月六日逝去。僕が、就職する前に、他界されています。その人の名前は、経団連会長を長く務め、「財界総理」の異名から覚えています。また、大阪万博の会長を引き受け、万博を成功に導いたことでも有名です。特に、大阪万博会長の時は、鈴木俊一事務総長(のちの東京都知事)との大物コンビ。財界総理と官房副長官を務めた官界トップです。当時の万博にかける意気込みを感じさせますネ。東京オリンピックの誘致成功後、これから、開催に向けての準備、これも、日本の政財官を挙げて取り組む姿勢が必要です。そのためには、時の大物がリードすることが必要でしょう。そんな大物って、今の日本に居ますか?

経団連会長として、石坂は何を残してきたか。
 まず何より感ずるのは、経済界全体が自主自立に徹するよう、方向づけしたことである。そこには、日本経済の少年のような活力を信じ、自由経済の論理にのっとって、のびのびと成長させようとの骨太な意志があった。
 そして、のびはじめた後では、今度は一日も早く一人前の大人として、国際社会の仲間入りを果たすべきだという強い意欲があった。邪道や奇道、あるいは裏道やバイパスを嫌い、頑固なほど自由経済の論理を信奉し、その啓蒙にもつとめた。』

 今や、日本経済は、石坂の時代の少年の時代から大人に成長し、熟年の時代に入りつつある。その時代になっても、TPP、規制緩和など石坂の理想とした自由経済への歩みは遅い。

『「日本の役人は悪い習性をもっている。昔の役人は高等官になれば、勲章がもらえたが、いまでは国民の前で威張るタネがなくなった。いわゆるグランド・マザリー・レジスレーション(細かいことに干渉しすぎる法律規則)で細かに威張るしか道がなくなったのだろう」
 石坂の役人批判はさらに続いて、
「それと役人の数が多すぎる。二、三割ぐらい減らして、その役人たちを民間にまわせばいい。それにはつねに民間の産業を盛んにしておけばすむ」
 経済に活力あってこそ、すべてがうまくいく。
 役人の干渉はその活力をそぎ、悪循環になるとの考え方である。』

 石坂の活躍した四十年前に、石坂は、現在に通用する考えを持っていました。安倍総理が、民間活力の爆発、これが成長戦略のキーワードと言っていますが、その方法の一つを石坂は暗示しています。