「森崎書店の日々」

tetu-eng2014-03-23

森崎書店の日々」「続・森崎書店の日々
 八木沢 里志
 小学館文庫
 2010年9月12日発行 2011年12月11日発行
 476円(税別) 514円(税別)

 新刊本ではなく、ちょっと前の近刊本ですかね。紀伊國屋さんへ行くと、平積みの本は、池井戸潤さん、百田尚樹さんの本ばかり。いっときは、東野圭吾さんonlyでしたが、ちょっと、下火。正直、すこし、食傷気味ですかね。書店員の皆様、ちょっと、偏りすぎではないですか?もっと、幅広く、いろんな作家さん、いろんなジャンルの本を紹介してくださいね。まあ、本商売は、出版元、販売元のご意向がありますから、なかなか、難しいとは思いますが・・・。

『わたしが森崎書店で暮らしたのは、夏野はじめから、翌年の初春にかけてのことだった。
 その期間、わたしは店の二階にある空き部屋で、本に埋もれるようにして過ごした。部屋は、日当たりが悪くて狭苦しい上、常に古本たちの黴臭い匂いに囲まれて、いつもじめじめしているところだった。
 でも、わたしは今日まで、そこで過ごした日々のことを一度として忘れたことはない。
 なぜなら、わたしが本当の人生をはじめるきっかけを、その場所は与えてくれたのだから。もしあの日々がなかった、わたしのその後の人生は、もっと色味に欠け、単調でさみしいものだったに違いない。
 決して忘れえぬ、大切な場所。
 それが、わたしにとっての森崎書店だ。』

 あなたにとって、「決して忘れえぬ、大切な場所。」ってありますか?どこですか?ぼくにとって、人生を左右した「大切な場所」ってどこでしょうか?

 貴子は、失恋をしました。そして、失恋の失意から立ち直れないまま、会社を辞めて、アパートの自室で「ひもの」のような生活に明け暮れていました。ある日、突然、サトル叔父さんから電話があります。小さいとき、とても懐いていた叔父さんです。思春期を迎えるにしたがい、その叔父さんからは縁遠くなっていたのですが、その電話は、昔と変わらない飄々としたものでした。その電話は、「ウチで働かないか?」ということでした。しかも、住み込みで・・・。それが、神田神保町の古本屋の「森崎書店」です。

 神田神保町。懐かしい地名ですネ。ぼくは、大学6年間(1年は、静岡県三島)、神田三崎町に通学していました。神保町は隣町。もちろん、有名な古書店街は、年から年中、ぶらぶらしていました。なじみの喫茶店もありましたね。そうそう、「丸沼書店」という法律書専門の古本屋は、行きつけでしたね。そこで、我妻栄の「物権法」(絶版図書)をバイト代(当時、八千円だったかな?)を叩いて買った記憶があります。

永井荷風谷崎潤一郎太宰治佐藤春夫芥川龍之介宇野浩二・・・・。名前は知っているけどちゃんと読んだことのない人、名前すら知らなかった人、とにかく面白そうだと思ったものは全部手にとって貪欲に読んだ。それでも読みたいものは次から次へと見つかる。
 こんな素晴らしい体験があるということを、それまでぜんぜん知らなかった。なんだかいままで人生損をしてきたような気持ちにさえなる。』

 貴子は、「森崎書店」で、サトル叔父さん、桃子さん(叔父さんの奥さん)、サブさん(常連)、喫茶店のマスター、トモちゃん、高野くん、そして、和田さん(やがては彼氏に)などに囲まれて、新しい人生をスタートさせます。もちろん、そこで、お役に立ったのは、たくさんの本です。

 ぼくは、近刊本を読み漁っていますが、たしかに、名前はしっているけど読んだことのない本、たくさんあります。本にも、流行があります。「歌は世につれ」と言いますが、本も同じです。近刊本を読まないと時代に取り残されるし、そうはいっても、人生損はしたくないし、これから、いったい何冊の本が読めるでしょうか?