「思い出のとき修理します 2」

tetu-eng2014-03-30

「思い出のとき修理します 2」
 谷 瑞穂
 集英社文庫
 2013年9月25日発行
 580円(税別)

 あなたにとって、修理したい「思い出のとき」ってありますか?って、誰でも、あるでしょうネ。ちょっと、考えてみてください。自分にとって、ほんとうに、修理したい「思い出のとき」は、いつ、どんなとき、だろうか?

「う〜ん。ぼくは、いつ、どんなときだろうか?」と、自問してみましたが、『ありません』でした。おぎゃ〜と生まれて、還暦の年まで、そりゃ、いろんなことはあったでしょうが、人には「忘却」という「恩寵」が与えられています。嫌なことは忘れて、楽しいことだけが、「思い出のとき」です。だから、修理する必要はないのです。って、結局は、幸せな人生を送ってきたということでしょうか?たぶん、おそらく、そうだと思います。これからも、そうありたいものです。

『秀司の時計店には、シューウィンドウに”思い出の時 修理します”というプレートが置いてある。祖父の代からあったそのプレートには、以前は”思い出の時計修理します”と書かれていたことを、もちろん商店街の人はよく知っている。金属製の、”計”の一文字がはずれてしまっただけだと、誰も不思議には思っていない。が、孫が店を継いでからもプレートの文字をそのままにしているというのは、少々奇妙に感じているようだ。
 だからみんな、冗談めかしながらもふと過去を修復できないかと考えたとき、なんとなく飯田時計店のシューウィンドウを思い浮かべてしまうのだ。』

 シリーズ第2弾。シャッターが閉まったお店が多い「津雲神社通り商店街」。そのなかに、明里がすんでいる「ヘアーサロン由井」、秀司がすんでいる「飯田時計店」、そして、津雲神社の社務所にすんでいる不思議な青年太一くん。明里は美容師さん。秀司は時計師さん。飯田時計店では、時計の販売はしていません。もっぱら、時計の修理を専門としています。もちろん、オーダーメイドの時計の製作も可能。でも、最近の時計はデジタル時計がおおいいので、修理と言ってもね。なんて、現実的なことを言ってもダメ。飯田時計店に持ち込まれる時計は、思い出のいっぱい詰まったアナログ時計なのです。

 そうそう、「竜頭」って知っています。「針を回す」「秒針を停止させる」「カレンダーを修正する」それが「竜頭」の役目です。「リュウズ」です。最初、「りゅうとう」て、なんだろう。「竜の頭」??訓読みすると「「リュウズ」なんですね。

『ずいぶんきれいですね。毎日ちゃんと汚れを取って、丁寧に使ってらっしゃいましたね。すそうすると時計も、持ち主に馴染もうとするんです。そっくり同じ時計が世の中にいくつあっても、自分に馴染んだ時計はもう唯一無二のもの。かすかな音の違い、竜頭のなめらかな動きかた、そんな小さな癖のようなものが、その時計にしかない個性に思えて情がわきます。たとえ壊れてしまっても、簡単には捨てられません』

 飯田時計店に持ち込まれる時計には、時計にまつわる思い出がついています。秀司と明里は、その思い出を解き明かしながら、・・・・・第2弾は、4作の短編連作です。ちなみに、秀司と明里は、恋人同士です。やさしい小説の中で、風変わりな太一くんがこの小説のスパイスかもしれません。