「55歳からのハローライフ」

tetu-eng2014-05-18

「55歳からのハローライフ」
村上 龍
幻冬舎文庫
2014年4月10日発行
600円(税別)

 村上龍さんといえば、「限りなく透明に近いブルー」。ちょうど、僕と同年代。たぶん、二世代前が、石原慎太郎さんの「太陽の季節」、一世代前が、柴田翔さんの「されど、われらが日々」、ならば、僕たち世代は「ブルー」の世代でしょう。高度成長期のまぶしくて溌剌とした時代から、学生運動の激しかった激動の時代、そして、学生運動の終末期で目標を喪失した若者たちの怠惰な時代へとの移り変わりです。

 そして、現代は、超高齢化社会。人生二毛作で、第二の人生の生き方に何を求めるのか?男は仕事を卒業して、女は子育てを卒業。でも、まだ、人生、遊んで暮らすには長すぎる。ちょうど、「ブルー」世代が55歳〜60歳ぐらい、この小説は、まさに、「ブルー」世代の今からは、そんな小説ではないでしょうか?

 この小説は、5編から構成される短編小説です。

 夫が定年退職して、熟年離婚した中米志津子。しかし、経済的には成り立ちません。そこで、新たな稼ぎ手を求めて結婚相談所に通って、新しい出会いを・・・・、でも、そうは、うまくはいきませんよ・・・「結婚相談所」

 リストラされて、体調もよくない因藤茂雄。いつしか、ホームレスに異様な反応を示すようになりました。それは、いつか、自分も・・・。そんなとき、中学の同級生のホームレスに出会いました。因藤は、彼から頼まれごとをします。その頼まれごとは・・・「空を飛ぶ夢をもう一度」

 定年後は、妻とのキャンピングカーでの旅を夢見ていた富裕太郎。妻と子供たちに話をすると、妻の反応はいま一つ。妻は、きっと喜んでくれると思っていたのに・・・。あきらめて、再就職の道を目指すが、営業職の肩書きは、会社でしか通用しない・・・「キャンピングカー」

 夫が定年退職、子供は独立、高巻淑子は、念願のペットを飼うこととした。夫は、あまり、賛成してはくれなかったが。柴犬のボビー。ボビーのおかげで、ペットフレンドができた。生活にもハリができ、癒やされた。しかし、ボビーが六歳のとき・・・早すぎる別れが・・・「ペットロス」

 トッラクドライバーだった下総源一。仕事に男として誇りをもっていたが、年齢とともに長距離ドラーバーは、体力的に無理がある。ある古本屋で堀切彩子と出会う。「老いらくの恋」でも、その結末は・・・俺にもできるだろうか・・・「ドライブヘルパー」

『「犬?いったい何を考えているんだ。あんなに辛い思いをしたばかりじゃないか」
 新しく犬を飼おうかと考えていると打ち明けると、夫は、怒ったような口調でそう言った。その表情も口調も台詞も、予想したものとまったく同じだったので、高巻淑子は、可笑しくて、自分でもびっくりするくらいの笑い声を上げた。
 わたしだって、まだ早いと思っているんですよ。ちょっと言ってみただけです。予想と同じ反応だったので可笑しかったと弁解したあと、そう付け加えた。正直な気持ちだった。すると、夫は真剣な表情になり、いや、飼ったほうがいい、とい言った。そんな反応は予想外だった。そして信じられないことに、夫は目にうっすらと涙を浮かべていた。』

 我が家のダックスフンドくんは、もう11歳。そのときを考えただけで、瞼があつくなります。悲しみは辛いだけ、心に記憶として刻み込まれる。でも、人間には、忘却という恩寵も与えられています。これからの人生、「記憶」と「忘却」の繰り返しです。でも、新しい出発へ「ハローライフ」!!