「虹の岬の喫茶店」

tetu-eng2014-11-16

「虹の岬の喫茶店
森沢 明夫
幻冬舎文庫
平成26年年4月10日発行
648円(税別)

 吉永小百合さん主演の映画「ふしぎな岬の物語」の原作です。

 2011年に映画化された高倉健さん主演の「あなた」も森沢さんの小説が原作です。先日、細君が録画していた「あなた」を観て、僕も、会社を辞めたら、車で旅にでようか、なんて、すぐ感化されてしまいます。「あなた」では、妻の遺骨を故郷の海に散骨するための旅でしたが、それは悲しすぎるので、僕は、細君を助手席に乗せて、地方の古本屋さんを巡る旅かな?それも、僕の実現しない「夢」かな?

『 初老の女性の名は柏木悦子さんといった。コーヒーをテーブルに置いたときに、店の名刺も一枚添えてくれて、そこに彼女の名前が書いてあったのだ。
悦子さんのいれたコーヒーは、たとえようもないほど優しい風味だったので、ひとくち飲んですぐに、私はため息をついてしまった。さらに、カップまでだった。縁が丸みを帯びたハート型だったのだ。内側だけに釉薬をかけた、焦げ茶色のカップだ。』

海の向こうに富士山が見える小さな岬に佇む1軒の喫茶店。店主は、柏木悦子さん。店の名前は「岬カフェ」。悦子さんが、「おいしくなれ、おいしくなれ」と呪文を唱えて淹れてくれた「岬ブレンド」は、店を訪れる常連さんには、大好評です。

小説は、短編連作。「岬カフェ」を訪れるお客さんとの人間交流。悦子さんのほのぼのとした優しさに触れて、誰もが、もう一度、訪ねたくなる。そんな「岬カフェ」。でも、それぞれ事情を抱えて、また、訪れることはないが、そこに、足跡は残っている。

映画化されたのは、第四章「ラブ・ミー・テンダー」。笑福亭鶴瓶さんは、常連客の「タニさん」の役でした。吉永小百合さんを相手に、随分と、いい役をやったものです。どういいかは、映画を観るか、この本を読んで下さい。

『 Love me tender、love me long、take me to your heart.For it‘s there that I belong、and we’ll never part.』

 僕も、会社を辞めたら、おいしいコーヒーを淹れる喫茶店がやりたいね。でも、むさ苦しい親爺がマスターの喫茶店なんか、誰も、来てはくれないでしょうね。ありゃ、また、感化されましたね。

『 「わたしね、大好きな言葉があるの」
もう充分に泣いた私は、顔をあげて悦子さんを見た。
「間違いを犯す自由が含まれていないのであれば、自由は持つに値しないーーー」
「・・・・・・・・」
「インドの民族運動の指導者だったガンデイーの言葉なんだって。素敵でしょ。ずっと昔、あの虹の絵を描いた人が教えてくれたのよ」
「・・・・・・・」
「今夜のあなたにも、間違いを犯す自由があったはずよ。次から間違えなければ、今夜の経験はきっと無駄にならないわ」』

悦子さんの言葉がひとつひとつ、吉永小百合さんの語り口調に思えてきて、なんだか、とても得をした気分で小説を読むことができました。ありがとう。吉永小百合さんへ。