「矢上教授の午後」

tetu-eng2014-12-21

「矢上教授の午後」
森谷 明子
祥伝社文庫
平成24年年4月20日発行
667円(税別)

場所は、

『東京都下、多摩地区に位置するその大学の、生物総合学部には、まだぎらぎらと夏の日差しがが照り付けていた。
広大なキャンパスの一角には、通称、「オンボロ棟」がある。大学側の正式名称も第一研究棟とそっけないこの建物は、伝統を誇るこの大学の歴史そのものだった。』

8月23日の午後、暑い夏の日に、突然、天気は一変して、ゲリラ豪雨となった。おまけに、落雷のため、停電。この「オンボロ棟」は、陸の孤島状態になった。この研究棟には、矢上教授(生物総合学部日本古典文学担当非常勤講師)のほかに、三谷教授、松浦教授、馳部教授のほか助教が2名、院生が3名取り残されていました。

何となく、無理のある設定の場面で、屋上の階段付近に1人の男の死体が横たわっていた。いわゆる、密室殺人。と、ここで、矢上教授の出番となり、この殺人事件の真相を追い始める。という、ミステリ&サスペンス小説ですが、残念ながら、構成があまいというか、なんというか・・・・、率直に言って、ちーとも、面白くなかったということです。

『「ずばり、閉ざされた空間での犯罪」
「あの、矢上先生は、ひょっとしてミステリマニア、っていう奴ですか」
「今時、交通手段も絶たれた集団なぞ、小説の中にしか成立しないと思っていたのだ」
馳部の質問が、矢上の耳には入らないらしい。
現代日本は、絶対に人間が孤であることを許さない、とね。一人で静かにしていたくても、電話は鳴る。どこに行こうと携帯電話で追いかけてくる。いや、昨今はおのれの居所まで突き止められてしまうらしい。それがなんと、東京都下で名実ともに閉ざされた空間が出現し、殺人事件まで起き、その一員に加われた」
馳部は毒気を抜かれた思いで、熱弁をふるう老教授の顔を見ていた。』

まるで、ソフトバンクのTVコマーシャルのようですが、閉ざされた空間の代表は、雪山の別荘で、古典的サスペンスの代表的な場所ですね。この小説が、ちょっと、変わっているのは、東京都下の大学の研究棟ということでしょうか。

面白くなくても、最後まで読み切って、面白いところを捜すのが読書愛好家(自称)ですが、うむ、面白くないサスペンス小説は、まあ、どうにもなりませんでした。でも、最後まで、面白くなることを期待して、読みましたが・・・・。

そういえば、今週の爆弾低気圧で、大雪のため、孤立した地域が日本の各地に発生しましたが、もともと、昔から、大雪による孤立化はあったと思います。ことさらに、マスコミで報道するのは、高齢化により孤立化地域に命に係るリスクが高くなったからでしょうか。だからといって、公共工事を増やして、コンクリートを投入するのは、費用対効果を考えると、難しいでしょう。

自民党政権が長期化すると、人もコンクリートもということで、日本の財政は、ますます悪化するように思えます。民主党事業仕分けがよかったとは、思いませんが、誰か知恵のある政治家が、費用対効果を、よく吟味しながら、効率的な投資をするとともに、痛みも国民へ説明し、財政の健全化を目指していただきたいものです。これからの日本のために。