「火花」

tetu-eng2015-02-08

「火花」
又吉 直樹
文学界 2月号
文藝春秋
970円(税込)

又吉直樹さんは、ご存じでしょうか?お笑い芸人の「ピース」の又吉さんのことです。たいへんな読書家と言うことで、漫才よりも、そちらの方面で有名になり、読書評論なども、数々、書いているようです。「本の虫」という言葉がありますが、この方も、「本の虫」の一人なのでしょう。

その又吉さんの「火花」は、230枚のデビュー作ということで、注目され、そして、純文学の巨塔である「文学界」に掲載されているとのこと、最近の話題になっていました。芸人さんのミリオンセラーでは、「ホームレス中学生」が記憶に新しいですが、この作品は、本格的な純文学と評価された・・・・のですね。

ウクレレマガジン」を買うために、三宮のロフトの紀伊國屋書店に行きました。レジ横に、ふと目についたのが、話題の又吉さんの作品が掲載された「文学界」という月刊誌です。僕は、初めて、買いました。僕も、本は好きですが、「文学界」や「三田文学」などの投稿雑誌を買ってまで読むほどではありません。

『「漫才師である以上、面白い漫才をすることが絶対的な使命であることは当然であって、あらゆる日常の行動は全て漫才のためにあんねん。だから、お前の行動の全ては既に漫才の一部やねん。漫才は面白いことを想像できる人のものではなく、偽りのない純正の人間の姿を晒すもんやねん。つまりは賢い、には出来ひんくて、本物の阿呆と自分を真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できるもんやねん」』

漫才論なるものをぶっているのは、「あほんだら」の神谷(24歳)さん、神谷さんを師匠と仰ぎ、なにかと神谷さんに付き添っているのが、主人公の僕こと、「スパークス」の徳永(21歳)です。二人の出会いは、熱海の花火大会の演芸特設コーナーです。漫才は、花火の音にかき消されながらも、営業の巡業で、がなり立てるような漫才・・・むなしいね。

そんな二人が意気投合して、お互い漫才師としての道を歩んでいきます。小説は、この二人の掛け合いがほとんどで、これてといった、盛り上がりもなく、平板な小説になっています。どこがクライマックスなのか・・・小説としての技法というものがほとんど使われていない、小説と言うよりは、日記をつなげ合わせたような仕上がりですね。
プロローグが、熱海の花火大会の場面で、エピローグが、再び、熱海の花火大会の場面、そして、物語は、神谷さんと僕との漫才談義の火花が散る。タイトルは、「火花」って、ちょっと、あんちょこすぎませんでしょうか?申し訳ありませんが、「文学界」ともあろう歴史のある雑誌が、また、文藝春秋社が、時流の人気に乗せられて、営業に
走ったとしか思えませんね。

『僕は芸人を辞めて、取りあえずは二軒の居酒屋で休みなく働き生計を立てた。相方は大阪の実家に帰り、携帯ショップに就職が決まったようだった。神谷さんとは時々、連絡を取った。神谷さんの伝記のために書き溜めたノートは二十冊を超えていた。その半分以上は自分やスパークスや恋愛に纏わることだった。この中から、神谷さんを神谷さんたらしめる逸話だけを集めれば、もしかしたら伝記になるかもしれない。』

ということで、この「花火」が神谷さんを神谷さんたらしめる逸話だけを集めた伝記ということのようです。随分と、きびしい感想を書きましたが、はじめて、「文学界」なる雑誌を買う経験をさせていただいたことに感謝します。