「夢を売る男」

tetu-eng2015-07-05

「夢を売る男」
百田 尚樹
幻冬舎文庫
平成27年5月1日初版発行

百田尚樹さん。今、何かと、話題の人ですね。一昨年頃かな?単行本として出版されて、話題となった問題作の文庫本化です。

「永遠の0(ゼロ)」「海賊と呼ばれた男」は、読み応えがありましたが、この作品は、ずいぶんと軽いタッチで、さらりと読了ですね。

すこし脱線します。今、話題となっている百田さんの発言について、これが、事実ならば、ぼくは、まったく賛成できないというか、ジャーナリストとしての矜恃が感じられない残念な発言だと思います。「言論の自由」という自由権が濫りにふりまわされています。そもそも、「言論の自由」とは、国家に対して国民に賦与された天賦の権利であり、個人と個人との間で、ふりまわすものではありません。

にもかかわらず、「沖縄の新聞はつぶさないといけない」などと時の権力者である自民党の勉強会で講演するとは、言論を弾圧しろと云っているようなものです。こういう考え方の人が増えると、世の中はファシズムへと突き進みます。ぼくは、百田さんには、ベストセラー作家として、品のよい活動をしていただきたいと思います。

この小説が単行本として発刊されたとき、百田さんが某バラエティ番組で言っていました。

『作家なんて儲かるわけないじゃないですか。一所懸命、調査して、勉強して、1年間かけて原稿を書いて本を出したとします。1万部売れたら、ヒット作品です。一冊1400円、印税が10%として(新人は7%ぐらい)140円、都合140万円です。毎年、こんなヒット作なんて書けません。純文学なんて、3千部売れたら御の字。都合42万円。だから、作家という人のほとんどがアルバイトで飯を食っている。』

そういえば、毎年2回ずつ芥川賞直木賞がありますが、その歴代受賞者をみると、最近の受賞者でも、そのときだけは、書店に平積みされますが、一月もたつと忘れ去られてしまいます。続いて、何作もヒット作を出せる作家は、もう、一握りの人ですね。クリエーターの世界は、厳しいですね。

この小説には、そういった小説の世界の裏事情、小説家の裏事情、出版社の裏事情などが物語として書かれています。そして、自費出版の裏事情、うむ、これは、ブロガーとしては、興味津々でしたね。

『「知ってるか。世界中のインターネットのブログで、一番多く使われている言語は日本語なんだぜ」
「本当ですか」
「今から7年前、2006年に、英語を抜いて、世界一になったんだ。当時のシェアは三十七パーセントだ。今ならもっと増えているだろう」
「七十億人中、一億人ちょっとしか使わない言語なのに。それはどういうことですか?」
「日本人は世界で一番自己表現したい民族だということだ」』

ふ〜ん。そうなんだ。ぼくが、ブログを書き始めたのが、2007年5月からですから、ブロガーとしては、かなり老舗だと思っていましたが、その時、すでに、世界一だったのですね。驚き!

『「百年前はテレビも映画もなかった。その頃はおそらく、小説は人々の大きな娯楽の一つだったろう。しかしこの21世紀の現代に、小説を喜んで読む人種は希少種だよ。いや絶滅危惧種と言ってもいいな」
「これは何も大袈裟に言ってるんじゃない。2011年にNHKから出版された「日本人の生活時間」によれば、国民が本を読む時間は一日に平均十三分なんだそうだ」』

とうとう、ぼくは、絶滅危惧種になってしまいましたとさ。