「岸辺の旅」

tetu-eng2015-11-29

「岸辺の旅」
湯本 香樹実(かずみ)
文春文庫
2015年9月5日第4刷

人は、死んだらどうなるのだろうか?

人は生まれてから、ひたすら死に向かって歩き続けるといいます。一言でそう片付けてしまうと、なんだか、寂しい気持ちにもなります。

古今東西、世界中の誰もが、生きているときには、必ず、考える命題であり、決して、答えがないことです。だって、死んでから生き返った人がいないのだから。(そういう人がいるというお話も聞きますが・・・・)

2年前、ある手術で全身麻酔をしたとき、手術室で、「明日に向かって撃て」の主題歌を聴きながら、「はい、マスクをかけますよ」と言われて、目が覚めたら、術後室で、細君の顔が見え、「大丈夫?」と声をかけられ、「うん、大丈夫!」と答えました。

その経験からすると、死ぬ直前って、スーと逝ちゃんじゃないかと思います。案外、死ぬことって怖くないじゃないかとも思いました。ただ、死ぬまでが、いろいろ、大変なんだろうな。(父と母の晩年を思うと、そう思います。)

「ぴんぴん、ころり」が誰もが求める理想的な最後でしょう。

3年間、居なくなっていた夫・優介が、突然、帰ってきた。

『あたった黒胡麻に砂糖を混ぜ合わせて餡をこしらえ、さてこれをしらたまでくるもうと思ってふと顔をあげると、配膳台の奥の薄暗がりに夫の優介が立っている。しらたまは彼の好物だったし、こんな夜中にきゅうに食べたくなったのは妙だと感じてもいたから、「ああそうだったのか」とすぐに思った。やはりそうだったのか。優介がいなくなって三年経つ。』

物語は、いきなり、しらたまから始まります。しらたまを食べながら、優介は、とうに、蟹に食べられたという話をする。そして、家に戻ってくるまでに三年かかったと言う。三年間、何処で何をしていたのか?でも、蟹に食べられた優介は、三年で家に戻ってきたのです。

蟹に食べられた人間は、三年で生き返るのか?いえいえ、これは、物語の世界です。

一夜が明けて、瑞希は、優介と優介の三年間の奇跡をたどる旅に出かけます。旅の目的は、何か?目的なんか、どうでもいいのかもしれません。ただ、二人は、寄り添いながら、旅に出かけたのです。

物語は、三年間に優介が立ち寄ったところ(おおくは海辺)を巡りながら、数日をそこで過ごし、あるときは、新聞販売店を手伝い、あるときは、食堂を手伝い、また、あるときは、農家に居候する。そんな日々が、瑞希は、ずっと、続けばいいと思う。

そんなあてのない生活、そこで、二人の愛の深さを知る。優介をよみがえらせたのは、愛の深さなのか?
愛は、死んだ人間をよみがえらせる。いや、死んだ人間の魂をよみがえらせる。

そんなことを考えていると、今まで、考えたこともなかったけれども、細君との思い出をいっぱい残す準備が、そろそろ必要かな、なんて、ちょっと、気弱な思いにふける晩秋です。